2012/7月掲載

 

「明日、君がいない」「僕の大事なコレクション」「追悼・アーネスト・ボーグナイン」

「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」「チャーリング・クロス街84番地」

 

 

 明日、君がいない   2006年オーストラリア映画 上映時間139

ポスター&DVDジャケット
ポスター&DVDジャケット

 

 CAST

 

メロディ(マーカスの妹)・・・・・・テレサ・パルマー 
 

マーカス(成績優秀な男の子)・・・・フランク・スウィート

 

ルーク(スポーツマン)・・・・・・・サム・ハリス
 

スティーヴン(障害をもつ男の子)・・チャールズ・ベアード
 

ショーン(ゲイの男の子)・・・・・・ジョエル・マッケンジー
 

サラ(ルークのガールフレンド)・・・マルニ・スパイレイン
 

ケリー(もう1人の女子生徒)・・・・クレメンティーヌ・メラー

 

                            

                             STAFF

 

                             監督(脚本)・・・ムラーリ・k・タルリ

 

                             撮影・・・・・・・ニック・マシューズ

 

                             音楽・・・・・・・マーク・チャンズ

 

 

英語版ポスター
英語版ポスター
メロディ
メロディ
ショーン
ショーン

 

これは語るのがとても難しい映画です。

 

舞台はオーストラリアのある高校。

 

原題は2h37。冒頭、この時間にある高校生が自殺を図ります。

 

在学生7人を中心に午後2時37分からその日の朝に溯って物語は始まります。 

 

皆いじめられていたり、自分一人で背負いこむには重すぎる悩みを抱えていたりします。

 

しかもそこには大人どころか親の影さえ見えません。彼ら彼女らは親に縋りたくてもあてにならない事を

 

良く知っているのです。男子生徒はセックスのこと、親の期待に沿っていい点数を取ること。

 

女生徒はおしゃれとボーイフレンドのことが頭の中の大半を占めています。

 

それらはこの年頃にはありがちなことですが、その心の中に分け入ると凄まじい葛藤を抱えて生きていることが

 

わかります。映画は時間軸を少しづつずらしながら6人の心の内を明らかにしていきます。

 

もっとも深刻なのはメロディです。彼女の流す涙はまさに血の涙なのです。

 

親の期待は兄のマーカスに集中していて、彼女は疎外感でいっぱいです。

 

でも、笑顔でいようとするのです。その笑顔にもやがて限界がやってくるのです。

 

彼女は親兄弟にも頼ることができず、その後どうするのだろうと思ってしまいます。

 

全員が押しつぶされそうな悩みを自分の中に抱え込んだままで誰にも話しませんし話せません。

 

だから誰ひとり、何一つ解決しません。誰が自殺を図ってもおかしくないのですが、結果は意外な人物でした。

 

監督は誰もが悩みを抱えていて心の中は誰にも分からないということを我われ観客をも巻き込む形で

 

表現したかったのでしょう。信頼関係は一朝一夕に出来るものではありません。

 

大人にとっては何でもないことでも子供にとっては人生を否定されたような気持ちになってしまうのです。

 

「大丈夫、大人になれば笑って話せるよ」などと軽々しくはとてもいえません。子供たちにとっては「今」が

 

すべてなのです。この映画は大人たち、とりわけ「親のあり方」と「無関心の罪」を鋭く問うています。

 

監督のムラーリ・k・タルリは19歳の時に企画し2年の歳月をかけて21歳の時に完成させました。

 

きっかけは親友の自殺だったそうです。それにしても驚嘆すべき才能です。

 

2006年カンヌを驚愕させたのもうなずけます。

 

 


 

  僕の大事なコレクション

 

     2005年アメリカ映画 上映時間1h45 〈予告篇・英語〉〈予告篇・音楽のみ

  


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  CAST

  ジョナサン・・・・・・・・イライジャ・ウッド

  アレックス・・・・・・・・ユウジン・ハイツ

  アレックスの祖父・・・・・ボリス・レスキン

  リスタ・・・・・・・・・・ラリッサ・ローレット

  リーフ・・・・・・・・・・ジョナサン・サフラン・フォア

  サミー・デイビス・Jr.Jr・・犬

 

                         STAFF

                         監督・脚本・・・・・・リーヴ・シュレイバー

                         原作・・・・・・・・・ジョナサン・サフラン・フォア

                         撮影・・・・・・・・・マシュー・リバティーク

                         音楽・・・・・・・・・ポール・カンテロン

 

 これもまた広島未公開作品。例会作品にと思いアタックはしたもののなしのつぶて。

 

 何とか上映させてもらえませんかワーナーさん。

 

 オープニングはギターの軽快なリズムとノリのいい歌声が耳に心地よい。俳優のリーヴ・シュレイバーの

 

 監督(脚本)デビュー作品。初めての監督作品とは思えない手堅い演出、抑制と省略の利いた素晴らしい

 

 映画だ。

 

 家族にまつわるものなら本能的に何でも集めてしまうジョナサン(イライジャ・ウッド)。

 

 彼は祖母から今わの際に渡された一枚のセピア色の写真を持っている。それには若き日の祖父と祖母ではない

 

 年頃の女性が映っていた。裏には「アウグスチーネとトラキムブロドにて」の文字。

 

  その女性を探すためジョナサンは祖父の故郷ウクライナへと旅立つ。当地で出迎えてくれたのはアメリカが

 

 大好きな「軽めの通訳」アレックスと眼がみえないといいながらトラバントを自在に操る運転手の

 

 アレックスの祖父。プラス祖父が盲導犬だと言い張る直ぐ吠える犬、サミー・デイビス・Jr.Jr

 

 注目すべきは現地の言葉をそのまま使っていること。従ってしばしば英語の字幕が出る。

 

 ジョナサンと祖父が話をする時にはアレックスの怪しげな通訳が間に入るから妙な間が生じて面白い。

 

 物語は祖父の隣に写っていた女性アウグスチーネの身元への興味で引っぱっていく。

 

 しかしトラキムブロドという村は一向に見つからない。やがて三人と一匹は広大なひまわり畑の真ん中に立つ

 

 一軒の家にたどり着く。そこには年老いた女性リスタがひとりで暮らしていた。

 

 彼女はなぜか「待っていたわ」といい部屋に案内する。そこには壁全体を覆い尽くすある物があった。

 

「もう戦争は終わったの?」とリスタが問いアレックスの祖父が「ああ終わったよ」と答える。

 

 この言葉が直後のシーンにつながりアレックスの祖父にとっては別の意味を持っていたことに気づかされる。

 

 ラスト近くジョナサンが何のためにコレクションをしているのかと問われ「忘れないためだ」と

 

 答えるのが重い。

 

 アレックスの祖父の過去とも相まって前半と後半の様子が180度変わってしまう作品。

 

 そして最後のもうひとひねりがあなたを待っている。

 

 おまけ・・・この物語のスタート地点はオデッサだ。

 

 最初チラリと写っていた階段はあの映画のあの階段かな。

 


      

 

      追悼 アーネスト・ボーグナイン

    アーネスト・ボーグナイン
    アーネスト・ボーグナイン

 

 クリック〉してみてください。ニニ・ロッソのトランペットで映画「リオ・ブラボー」のテーマ曲

 

「皆殺しの歌」が 流れますがバックの映像はなぜか「ワイルド・バンチ」です。

 

 しかし、画像とトランペットの哀愁を帯びた音色が良くマッチしています。

 

 作曲は「真昼の決闘」「ダイヤルMを廻せ」「老人と海」なども手がけたディミトリ・ティオムキン です。

 

 以下はメールリンクに寄せられた追悼文の転載です。(M)

 

 

 今朝(7/10)、死亡記事を見て、思い出にふけりました。

 

 古い映画ノートを見ると、1973年4/3に、京都の美松大劇?で、S・ペキンパー監督の

 

 「ワイルドバンチ」を見ています。

 

 その後、再映を探して、京都大宮のコマゴールドや、東京の浅草東京クラブで見ました。

 

 浅草は、「バンチ」の他、「バンチの脚本を書いたW・グリーンの「大自然の闘争」と、

 

 「シンドバット7回目の冒険」の3本立てでした。

 

 「バンチ」は、凄まじい銃撃場面があるので、好き嫌いが別れますが、私は追っかけの1人で、

 

 W・ホールデン、W・オーツ、B・ジョンソン、そしてボーグナインが、顔を見合わせた後、

 

 「レッツ、ゴー」と言って、仲間を救おうと動き出すシーンにしびれています。

 

 でも、彼の映画で最高傑作は、「北国の帝王」です。74年10月に京都で見ました。

 

 30年代のアメリカ、ホーボーが貨物列車のただ乗りをして各地へ流れていく中、

 

 「俺の列車にはただ乗りはさせない!」という鬼のような車掌役の彼と、ただ乗りに挑戦する

 

 R・マービンとのまさに死闘は、手に汗を握る面白さと激しさで満杯です。

 

 この映画の監督は、R・アルドリッチで、こちらも私のはまった人で、ボーグナインとのコンビは

 

 「飛べ!フェニックス」や「特攻大作戦」もあって、ビデオのない時代だったので、洋画の再上映館を探しては

 

 見に行きました。

 

 鬼瓦のような顔つきで、ニヤッと笑うと何とも言えない愛嬌もある、本当に個性的な役者でした。(い)

 

 


 

 『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』

 

   2003年  アメリカ映画  上映時間 2h11  

 

         CAST

         デビッド・ゲイル・・・ケビン・スペイシー

         ビッツィー・・・・・・ケイト・ウィンスレット

         コンスタンツ・・・・・ローラ・リネイ

         ザック・・・・・・・・ガブリエル・マン

 

         Staff

         監督・・・アラン・パーカー

         脚本・・・チャールズ・ランドルフ

         撮影・・・マイケル・セレシン

         音楽・・・アレックス・パーカー/シェイク・パーカー

 

 

 「ミシシッピー・バーニング」「ミッドナイト・エクスプレス」の名匠アラン・パーカーがその実力を

 

 遺憾なく発揮したサスペンス。広島未公開作品。大手配給会社なので私たちには残念ながら手が出せない。

 

 ファーストシーンがこの物語を暗示している。遠景―シネマスコープの画面の2/3は荒涼たる大地。

 

 残りの1/3が空なのだがその境目に道があり、右から猛スピードでやって来た車が、エンジントラブルで

 

 急停止する。運転席から転がり出たビッツィー(ケイト・ウインスレット)が必死の形相で走り出す。

 

 実はこのシーンは最後の映像に繋がっているのだが、映画はこの緊迫感が最後まで続く。

 

 死刑廃止論者のゲイルとコンスタンツは同じ大学の同僚だが、ゲイルがコンスタンツをレイプしたうえに

 

 殺したとされ死刑の判決が確定する。

 

 雑誌記者のビッツィーはゲイルの指名で処刑直前の三日間インタビューをすることになる。

 

 ビッツィーは無実を確信し調査に乗り出すがそれは時間との戦いになる。

 

 単純な有罪・無罪の映画ではない。ラストは二転、三転し全く予想もできない。

 

 「そうだったのか」の後に更に明らかにされる事実が観る者を串刺しにする。

 

 マスコミのいい加減さは洋の東西を問わないようだ。伏線の張り方も見事。

 

 最後にオペラのシーンが写し出されるがこれも実に意味深長。

 

 場面は「トゥーランドット」(作曲プッチーニ)のアリア(誰も寝てはならぬ)。

 

 ちなみにこれは荒川静香がオリンピックで金メダルを取ったときに使った曲。

 

 とにかく一筋縄ではいかない映画。

 


 

『チャーリング・クロス街84番地』

 

              1986年 アメリカ映画 上映時間 1h39

 

CAST

ヘレーヌ・ハンフ・・・アン・バンクロフト

フランク・ドエル・・・アンソニー・ホプキンス

ノーラ・ドエル・・・・ジュディ・デンチ

 

STAFF

監督・・・・・デビッド・ジョーンズ

製作総指揮・・メル・ブルックス

                   脚色・・・・・ヒュー・ホワイトモア

                   原作・・・・・ヘレーヌ・ハンフ

 

 

 名だたる名優が出演していながら日本では劇場未公開。

 

 このコーナーで最初に何を紹介しようかと迷った末に、少し古いが会員の皆さんをはじめ映画ファンの鑑賞に

 

 耐えうる作品だと思いこれを選んだ。

 

 ニューヨーク在住の女流作家ヘレーヌ・ハンフ(アン・バンクロフト)とロンドンで古書店「マークス社」を

 

 任されている フランク・ドエル(アンソニー・ホプキンス)の第二次世界大戦終了直後から約20年にわたる

 

 注文する側とされる側の垣根を越えた友情の物語。

 

 原作はヘレーヌ・ハンフの自伝的小説。ニューヨークの古書店で思うような本が手に入らないハンフは雑誌で

 

 マークス社の広告を見かけ注文する。すると丁寧な礼状とともに希望した本が届く。

 

 しかも信じられないほどの安価で。

 

 次々と注文を出すハンフとそれに誠実に応えるドエル。中には2年も過ぎて忘れたころに届く古書もある。

 

 本が届いたとき幼女のように喜々として包みを開くハンフ。注文した本と違っていたとき皮肉たっぷりな手紙を書く

 

 ハンフ。作家の手紙だけにその皮肉を込めた辛辣な書きっぷりが面白い。このあたりはアン・バンクロフトの独壇場。

 

 その後、ハンフは大戦直後で食糧事情の悪いイギリスのことを知りクリスマスや感謝祭にマークス社の社員に缶詰や

 

 ハムなどを送り、ハンフと社員たちの慎ましく心温まる交流となっていく。でもハンフが彼らと出会うことはない。

 

 最後まで・・・。

 

 この映画はヤンキー気質丸出しで言いたい放題のハンフとどこまでも物静かで誠実なドエルの好対照が際立ち、

 

 作品に強いアクセントを与えている。終生、出会うことのなかった二人の友情が手紙だけでどうして成立したのかと

 

 思うむきもあるだろうが、そんな疑問を差し挟む余地のない語り口のうまさとアン・バンクロフトと

 

 アンソニー・ホプキンスの名演技。ラストは胸がいっぱいになる。

 

 タイトルの「チャーリングクロス街84番地」はお気づきのとおり「マークス社」の所在地だったのだが、

 

 現在マークス社はすでになくレンタルビデオ店になっているらしい。

 

 しかし、傍らに「マークス社のあった場所」とプレートが取り付けれられているそうだ。  

    

 余談だが20数年前にレンタルビデオ店でこの作品を見つけて例会で上映したいと思い配給会社に

 

 電話したことがある。

 

 その返事は「ビデオにするためだけに輸入した。フィルムはあるが字幕はない」だった。