2012/8月掲載

 

「訣別の街」「愛という名の疑惑」「フィラデルフィア」「アギーレ/神の怒り」

 

 

訣別  

 

1996年 アメリカ 上映時間151 <予告篇・字幕なし

 

 CAST

 ジョン・パパス・・・・・・アル・パチーノ

 ケヴィン・カルフーン・・・ジョン・キューザック

 フランク・アンセルモ・・・ダニー・アイエロ

 メアリベス・ゴーガン・・・ブリジット・フォンダ

 

 

 STAFF

 監督・・・ハロルド・ベッカー

 脚本・・・ケン・リッパー

      ポール・シュレイダー

      ニコラス・ビレッジ

      ボー・ゴールドマン

 撮影・・・マイケル・セレシン

 音楽・・・ジェリー・ゴールドスミス

 

 ジョン・パパス(アル・パチーノ)はニューヨークの名物市長です。弁舌さわやかなことが

 

 人気の大きな理由のひとつです。

 

 ブルックリンで、ある雨の降る日、保護観察中のマフィアの麻薬の売人と刑事が

 

 銃撃戦の末ともに斃れ、その流れ弾が黒人少年の命を奪います。次期大統領を目指しているパパスは事の始末を

 

 市長補佐官ケヴィン・カルフーン(ジョン・キューザック)に命じます。

 

 カルフーンがうまく 情報操作をしたことと、少年の葬儀でのパパスの演説が功を奏し人気は前にも増して

 

 上昇していきます。

 

 しかし、死んだ麻薬の売人の保護観察処分の判決に不正があるのではないかとの疑惑が持ち上がります。

 

 そのために殉職した刑事がマフィアと結託していたのではないかとの憶測記事まで流れる始末です。

 

 一本気なカルフーンはパパスの制止も聞かず再調査を始めますが・・・。

 

 パパスの言う「イエスとノーの間に真実がある」という言葉が意味深長です。

 

 「さわやか」「誠実」の裏側にある腐敗した政界の人間模様をあぶり出します。

 

 アル・パチーノは小柄でどの登場人物よりも頭ひとつ低いのですがその存在感は「ゴッド・ファーザー」から

 

 少しも衰えていません。

 

 原作はエド・コッチ元ニューヨーク市長のもとで助役を務めていたケン・リッパーです。

 

   

 

 愛いう名の疑惑

 

 1992年 アメリカ 上映時間2h04<予告篇・字幕なし

 

 CAST

 アイザック・・・・リチャード・ギア

 へザー・・・・・・キム・ベイシンガー

 ダイアナ・・・・・ユマ・サーマン

 ジミー・・・・・・エリック・ロバーツ

 オブライエン・・・ポール・ギルフォイル

 

 STAFF

 監督・・・フィル・ジョアノー

 脚本・・・ウェズリー・ストリック

 音楽・・・ジョージ・フェントン

 撮影・・・ジョーダン・クローネンウェス

 

 アイザック(リチャード・ギア)は精神分析医です。患者には幼い頃のトラウマを抱えた

 

 ダイアナ(ユマ・サーマン)がいます。アイザックはダイアナの希望で姉のへザ-(キム・ベイシンガー)に

 

 会います。ここで皆さんの予想(期待?)通りアイザックはへザーの魅力に負けイケナイ関係になって

 

 しまいます。しかしへザーの夫はマフィアのボスでした。へザーは少しのアルコールでも飲めば記憶をなくす

 

 酩酊症で何度か治療を受けています。さあ舞台は整いました。

 

 へザーがバーベルで夫を殴り殺しますがアルコールが検出され無罪になります。アイザックもそのために

 

 奔走します。もちろん「色」と二人連れです。しかしここからが面白くなっていきます。

 

  遅まきながらアイザックも罠に気づきます。キタナイ手を使って、でっちあげられた「証拠品」を

 

 取り返そうとします。

 

 いくつか張った伏線の回収もきちんとできています。証拠品を無効にする方法も、なるほどと思わせます。

 

 自分を安全圏に置き続けるへザーは、はたして逃げきれるのか ― 最後まで分かりません。

 

 ちょっとした言葉のアヤで立場が逆転する面白さがあります。上には上がいます。

 

 この映画は間違いなくヒチコックを意識しています。気軽に謎解きを楽しんでください。

 


 

 フィラデルフィア

 

   1993年 アメリカ 上映時間205   <予告篇・字幕なし> <挿入曲・アカデミー歌曲賞

                       

 

 STAFF                   CAST

 監督・・・ジョナサン・デミ        アンドリュー・ベケット・・・トム・ハンクス

 脚本・・・ロン・ナイスワーナー      ジョー・ミラー・・・・・・・デンゼル・ワシントン

 音楽・・・ハワード・ショア        チャールズ・ウィーラー・・・ジェイソン・ロバーズ

 撮影・・・タク・フジモト         ミゲール・アルヴァレス・・・アントニオ・バンデラス

                      サラ・ベケット・・・・・・・ジョアン・ウッドワード

 

TriStarPicturesPhotofest/ゲッティイメージズ
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 一流法律事務所の若手弁護士として将来を約束されていたアンドリュー(トム・ハンクス)はエイズに罹患して

 

 いました。その事が会社に知れ、解雇されてしまいます。

 

 表向きは仕事上のミスという理由ですが、それも仕組まれたことでした。アンドリューは訴訟を決意し

 

 弁護士事務所を訪ねますがことごとく断られてしまいます。

 

 10番目に訪ねたのが、法廷でやりあったこともあるジョー(デンゼル・ワシントン)の事務所でした。

 

 ジョーはアンドリューのいた事務所とは違い庶民を相手に小さな事件でも労を惜しまずに引き受ける

 

 弁護士です。そんなジョーでしたが最初は弁護を断ります。ジョーにも偏見があったのです。

 

 切羽詰まったアンドリューは自分で弁護をすることにします。

 

 ある日アンドリューが図書館で差別を受けているところを目撃したジョーは正義感から

 

 弁護を引き受けることにします。

 

 吹けば飛ぶような弱小弁護士事務所が巨大法律事務所を法廷に引きずりだし闘いが始まります。

 

 法廷でのやりとりによって大企業だけを顧客にしてきた巨大法律事務所のエゴが露呈していきます。

 

 アンドリューの救いは家族の支えです。両親、兄弟がアンドリューを認め、見守るのです。

 

 ジョーも「ゲイは嫌いだ」といいつつ「この国の法律が侵された」ことに憤り、差別と偏見に立ち向かいます。

 

 デンゼル・ワシントンはこのようなシリアスな役もエンターテインメントなアクション物も観客の期待通りの

 

 演技をしてくれる素晴らしい俳優だと思いますが、この映画におけるトム・ハンクスには鬼気迫るものが

 

 あります。発病してから次第にやせ細っていくさまは一見本人とは思えないほどです。

 

 ラスト近くマリア・カラスのアリアを聴きながら心情を吐露するシーンは圧巻です。

 

 フィラデルフィアはアメリカの独立宣言が発表されたところです。

 

 そこにある「自由の鐘」にひびが入っているのも皮肉です。

 

 また自由と平等を説きながら外国に対してはエゴを押しつけてくるアメリカという国の矛盾でもあります。

 

 およそ20年前の作品です。今だったらエイズに対する理解も進みこれほどひどい仕打ちは無いと

 

 思いますが、声をあげてきた関係者の努力を思い歴史を感じます。

 

 トム・ハンクスはこの作品と翌年の「フォレスト・ガンプ/一期一会」で二年連続アカデミー主演男優賞を

 

 受賞しています。撮影のタク・フジモトという人はサンディエゴ生まれの日系二世でこの映画と同じ

 

 ジョナサン・デミ監督と組んで「羊たちの沈黙」「クライシス・オブ・アメリカ」ナイト・シャラマン監督とは         

 

 「シックス・センス」を撮っているハリウッドでもトップクラスの撮影監督です。

 

 

 

 

 

 アギーレ/の怒り  

 

        1972年 西ドイツ映画 上映時間1h33

 

 CAST

 ロぺ・デ・アギーレ・・・・・・クラウス・キンスキー

 イネス・デ・アティエンサ・・・ヘレナ・ホロ

 カルバハル・・・・・・・・・・デル・ネグロ

 ウルスア・・・・・・・・・・・ルイ・グエッラ

 

 STAFF

 監督(脚本)・・・・・・・・・ヴェルナー・ヘルツォーク

 撮影・・・・・・・・・・・・・トーマス・マウホ

 音楽・・・・・・・・・・・・・ポポル・ヴー

 

 

 

 フランシス・F・コッポラがこの作品に触発されて「地獄の黙示録」を作ったといわれています。 

 

 冒頭、霧が立ち込めるアンデス山脈の絶壁をスペインの探検隊が画面の上から下へ進んでいきます。

 

 絵的にも今にも落ちてしまいそうです。おまけに大砲やにわとり、ぶたなどの食糧も抱え、

 

 しかも着飾った女性まで連れています。

 

 インカ帝国を滅ぼした後、1560年ピサロ率いる探検隊が伝説に聞くエル・ドラド(黄金郷)を

 

 目指しているのです。やがて本隊が沼地に足を取られて進めなくなったため、先遣隊40名が組織され

 

 アマゾン川を下ってエル・ドラドを探しに行きます。副隊長のアギーレ(クラウス・キンスキー)は

 

 本隊から離れたことで暴力的な本性をむき出しにします。やがて隊長を殺して自らが先遣隊を支配します。

 

 しかし、乗り込んだ筏が急流に巻き込まれたり、原住民に襲われたり、食糧不足に陥ったりしたために

 

 次第に内部崩壊していきます。熱病にとりつかれ幻想を見る者まで現れる始末です。

 

 たった一人になったアギーレが 「占領してしまえば名は残る。たとえこの地に何もなくても」と

 

 全世界を我がものにする妄想に 取り憑かれる様は狂気そのものです。

 

 分かっていても破滅への道を突き進んでいく人間の愚かさを あぶり出します。

 

 そこには「知性」も「理性」もなくただ「欲望」があるだけです。

 

 ラスト、樹のうえに乗っている物をみたとき3.11を経験した今となっては荒唐無稽と笑い飛ばすことは

 

 できません。今から40年前の作品です。どうやってあの急峻なアンデス山中に機材を持ち込んだのか

 

 その執念に感服します。クラウス・キンスキーがはまり役です。

 

 尤もヘルツォークと組んだ作品はどれもがはまり役ですが…。

 

 同行した宣教師カルバハルの日記がもとになっています。

 

 広島市映像文化ライブラリーでヴェルナー・ヘルツォーク監督特集が下記の日程で開催されます。

 

 8月24日(金)アギーレ/神の怒り     ①1400 ②1830

   25日(土)ノスフェラトゥ       ①1400 ②1800

   26日(日)フィッツカラルド      ①1030 ②1400

   31日(金)キンスキー、我が最愛の敵  ①1400 ②1830