2013/3月掲載
「情婦」「ブリット」「第十七捕虜収容所」
情 婦
1958年アメリカ映画 上映時間1h56
<一場面> 日本語字幕なし
STAFF
監督・・・ビリー・ワイルダー
脚本・・・ビリー・ワイルダー
ハリー・カーニッツ
撮影・・・ラッセル・ハーラン
音楽・・・マティ・マルネック
CAST
レナード・ヴォール・・・タイロン・パワー
クリスチーネ・・・・・・マレーネ・デートリッヒ
ウィルフリッド・・・・・チャールズ・ロートン
ミス・プリムソル・・・・エルザ・ランチェスター
ジャネット・・・・・・・ユーナ・オコーナー
「情婦」などといういかがわしいタイトルを誰がつけたのでしょうか。アガサ・クリスティ原作のこの作品の
原題は「検察側の証人」です。「第十七捕虜収容所」に続きビリー・ワイルダー監督の傑作を紹介します。
心臓に疾患を抱えたロンドン法曹界の長老ウィルフリッド卿(チャールズ・ロートン)が看護婦に付き添われて
病院から自分の事務所に帰ってきます。酒、煙草、そして得意の刑事事件もダメだといわれ、大いにクサって
います。そこへ弁護士仲間が依頼人を伴って現われます。ウィルフリッド卿が心臓病だということがひとつの
アクセントになっていてストーリーにユーモアを与えています。その訪ねてきた弁護士の煙草ほしさに部屋に
招き入れ、話を聞くうちにウィルフリッド卿は俄然興味がわいてきます。ヴォール(タイロン・パワー)という
依頼人は、知り合いの富裕な未亡人が殺されたことから、嫌疑が自分にかかっていること。自分の潔白は
妻クリスチーネ(マレーネ・ディートリッヒ)が保証する、と述べて卿に弁護を頼みます。だが円満な夫婦の間の
証言など、法廷では取り上げられません。他にヴォールの無実を証明する人間がいないとすれば、殺す動機の
ない点を主張しなければなりません。しかし未亡人の全財産がヴォールに遺されていたことが判り、ヴォールの
立場は不利になります。そしてヴォールは逮捕されてしまいます。その後ヴォールの妻クリスチーネが来訪し、
ヴォールのアリバイを証言します。この2人は、ヴォールが戦時中ドイツに進駐していた頃、彼女を助けことから
結ばれた仲でした。ウィルフリッド卿は看護婦や周囲の心配をよそに、弁護に立つことにします。
物語は二転三転し予想外の結末を迎えます。映画の最後に「未見の人に結末を洩らさないでください」という
テロップがでます。最近の裁判物は弁護人と検事が口角泡を飛ばしてやり合うシーンがお馴染みですが
1958年製作のこの作品では節度をもって主張し合っているのが印象的です。
また、殺された未亡人の家政婦ジャネット(ユーナ・オコーナー)が芸達者ぶりを見せて笑わせます。
ブリット
1968年アメリカ映画 上映時間1h53 <予告篇>
日本語字幕なし
STAFF
監督・・・ピーター・イェーツ
脚本・・・アラン・R・トラストマン
ハリー・クライナー
撮影・・・ウィリアム・A・フレイカー
音楽・・・ラロ・シフリン
CAST
ブリット・・・・スティーブ・マックイーン
チャルマース・・ロバート・ヴォーン
キャシー・・・・ジャクリーン・ビセット
デルゲッティ・・ドン・ゴードン
ワイズバーグ・・ロバート・デュバル
ブリット警部補(スティーブ・マックイーン)がサンフランシスコの街をムスタングでブッ飛ばします。
カーチェイスシーンの元祖です。45年前の映画ですからCGなどはありません。当時、劇場で観て驚きました。
鮮烈な記憶が今も残っています。ブリットが殺し屋に後をつけられますが、それに気づいたブリットが
やり過ごし、逆に殺し屋の車の後ろに付きます。そのシーンでは殺し屋の車のバックミラーにブリットの運転する
ムスタングが静かに浮かび上がります。新鮮なカットです。途端に猛スピードで殺し屋が逃げ始めます。
ものすごいエグゾースト・ノイズが腹に響きます。いかにもガソリンを食いそうな音がします。
ゾクゾクする場面です。現在のシーンと比べても遜色のないカーチェイスシーンの始まりです。
ロケ地であるサンフランシスコの坂道を上手く使って緊迫感を盛り上げています。ジャンプしながら200キロ近い
スピードでのシーンをマックイーンはスタント無しで撮影しています。CGでゲームのように何でもできてしまう
今と違って全て実写ですからリアル感充分です。ちなみにスティーブ・マックイーンが刑事役で出演したのは
この「ブリット」だけです。
ストーリーはジョー・ロスというマフィアの組員が組の金を横領してサンフランシスコに逃げてきます。
上院議員のチャルマースがそのジョー・ロスの保護をブリットに求めてきます。上院で証言台に立たせようとして
いるのです。さらに、売名行為丸出しでブリットにあれこれ指図をします。一方ジョー・ロスはと言えば殺し屋に
狙われているというのにどうも警戒感が希薄なのですが、それは・・・。
電話も携帯などはありません。公衆電話やレストランで借りたりします。ダイヤル式です。
インターネットもありませんから写真なども電話線を使います。電送写真というやつです。そのレトロ感が
今観ると、またいいのです。時折りマックイーンの顔がアップになりますがその青い瞳が魅力的です。
いかにも映画スターという雰囲気を持っています。
第十七捕虜収容所
1953年製作 アメリカ映画 上映時間1h59 <予告篇>
STAFF
監督・・・ビリー・ワイルダー
脚本・・・ビリー・ワイルダー
エドウィン・ブラム
撮影・・・アーネスト・ラズロ
音楽・・・フランツ・ワックスマン
CAST
セフトン・・・・ウイリアム・ホールデン
ダンバー・・・・ドン・テイラー
シェルバッハ・・オットー・プレミンジャー
プライス・・・・ピーター・グレイヴス
第2次大戦末期。スイスとの国境に近いドイツの第17捕虜収容所。ここの第4キャンプには、軍曹ばかりが収容
されていました。クリスマスに近いある夜、2人の捕虜がみんなの協力で、脱走することになります。
2人が決行したあと、無事に脱出できるかどうかの賭けが始まります。悲観説をとなえたのはセフトン
(ウィリアム・ホールデン)軍曹。まもなく銃声が聞こえ、2人は射殺されたことがわかります。こ
の計画が発覚したのは捕虜のなかにスパイがいるからにちがいないと、皆の間で問題になります。最も疑われたの
はセフトンでした。実際セフトンは抜け目ない男で、衛兵を買収してひそかに外出したりするので、疑われる
理由は充分だったのです。セフトンの『経営』する“事業”には、いろいろなものがありました。ベッドの下に
隠しているトランクにはタバコ、酒から女の靴下までありましたし、二十日鼠を走らせてタバコを賭ける遊びや、
じゃがいもの皮からアルコールを蒸溜し、タバコ2本で1杯と交換していました。脱走者が射殺された数日後、
ダンバー(ドン・テイラー)という中尉と、バグラディアン軍曹が収容されてきます。ダンバー中尉は、
ドイツ軍の軍用列車を爆破したことがあり、それを知った収容所所長(オットー・プレミンジャー)の厳しい
訊問を受けます。こんなことからセフトンへの疑惑は更に深まり、一同は彼を袋叩きにしますが・・・。
ビリー・ワイルダー監督の腕の冴えを堪能できます。密告者は誰か、そしてそれをどうやって暴いていくのか
という面白さに引っぱられます。1954年に日本公開されていますが同じ年に黒澤明監督の「七人の侍」も
公開されています。登場人物にピーター・グレイヴスがいます。彼はテレビ版ミッション・インポッシブル
(スパイ大作戦)のチームリーダーのジム・フェルプス役でお馴染みでした。