2013/7月掲載

「波止場」「父の祈りを」

 

 

 

1954年公開 アメリカ映画 上映時間148

 

STAFF

 

 監督・・・エリア・カザン

 脚本・・・バッド・シュールバーグ

 撮影・・・ボリス・カウフマン

 音楽・・・レナード・バーンスタイン

 

  

  CAST

 

   テリー・・・・マーロン・ブランド

   イディ・・・・エヴァ・マリー・セイント

   バリー・・・・カール・マルデン

   チャーリー・・ロッド・スタイガー

   ジョニー・・・リー・J・コップ

 

ニューヨークの波止場で働く港湾労働者たちは、組合のボス、ジョニー・フレンドリーの暴力支配とピン

 

ハネに苦しんでいました。ある夜、港湾労働者のひとりジョイがアパートの屋上から転落死します。謀殺

 

でした。ジョイはジョニーを告発しようとしていたのです。直接の犯人はジョニーの子分チャーリーでし

 

たが、チャーリーの弟で、やはりジョニーの一味であるテリーも片棒をかついでいました。テリーは

 

元ボクサーで、そのことをひけらかしながらも八百長を指示されチャンピオンになれなかったことで兄を

 

恨んでいます。事件はバリー神父やジョイの妹イディの痛憤をよそに闇から闇へ葬り去られようとしてい

 

ました。イディは、テリーが兄の謀殺に関係があるのではないかと疑いますが、彼の意外な純真さに惹か

 

れ、2の気持ちは次第に接近していきます。チャーリーは、ジョニーに命じられて、弟テリーにやがて

 

開かれる公聴会では一切の秘密を口外するなと諭しますが、八百長試合の恨みもあり、さらにイディに恋

 

心を抱いているテリーは拒否します。その結果は屍体となったチャーリーの姿でした。テリーはジョニー

 

の犯行を証言します。翌朝波止場にあらわれたテリーは、港湾労働者仲間からボイコットされます。

 

ジョニーの報復を恐れているのか、テリーの「蛮勇」を突き放した目で見ています。兄チャリーを殺され

 

た遺恨もありテリーはジョニーを殴り倒しますが子分たちの暴行をうけて半殺しの目に遭います。しかし

 

テリーは渾身の力をふりしぼって立ち上がり、港湾労働者たちの先頭に立って仕事場へと向かいます。

 

一部では「名作」と言われています。しかしご都合主義的な場面も数多くあります。バリー神父は生硬な

 

正義論を振りかざしあれこれと指図はしますが自らの手は汚しません。彼はアメリカに於ける「神父」

 

「教会」というものの特別な地位を知っていて「安全圏」からの発言に終始します。それでいてラストで

 

はしゃしゃり出て指導者面をします。殺されたジョイの妹イディも最初はジョニーに立ち向かわないテリ

 

ーを口を極めて罵り、自分から向かっていこうとさえしますが、テリーと恋仲になるとジョイの事は忘れ

 

たかのように急に「遠くに逃げよう」と言いだします。その間、葛藤はありません。そのいい加減さに

 

口あんぐりです。更にラストではテリーが先頭に立って仕事場に向う時、港湾労働者たち全員が何かに

 

覚めたかのように、行かせまいとするジョニーを置き去りにして後に続くのですが、ほんの少し前まで

 

テリーイコットしていた彼らが急に目覚めるわけがありません。ボスのジョニーを殴り倒したのは兄

 

を殺され恨みだったからであり、決して労働者としての立場からではありませんでした。しかもテリー

 

はジョニの手下だったのです。だから味方でも何でもないテリーの後に港湾労働者たち全員が続くこと

 

に整合性がないのです。彼らはその日の仕事が無ければたちまち飢えるのです。安直なヒロイズムで全て

 

の港湾労働者が行動するわけがありません。“何の後ろ盾も無いテリーはやがて殺され、新たなボスがや

 

ってきて結局何も変わらない”永年痛めつけられてきた彼らはこう考えるのが自然です。監督のエリア・

 

カザン脚本のバッド・シュールバーグ限界を感じました。


 

祈り

 

1994年日本公開 イギリス・アイルランド合作 

上映時間213 <予告篇>

 

STAFF

 監督・・・ジム・シェリダン

 脚本・・・ジム・シェリダン

        テリー・ジョージ

 撮影・・・ピーター・ビジウ

 音楽・・・トレヴァー・ジョーンズ

               

                CAST

                 ジェリー・コンロン・・・・・・ダニエル・デイ=ルイス

                 ジュゼッペ・コンロン・・・・・ピート・ポスルスウェイト

                 ギャレス・ピアース・・・・・・エマ・トンプソン

                 ポール・ヒル・・・・・・・・・ジョン・リンチ

                 パディ・アームストロング・・・マーク・シェパード

 

実話の映画化です。1974年、北アイルランド。定職も持たずにけちなコソ泥に精を出しているジェリー・   

 

コンロンはIRA(アイルランド共和国軍)を挑発したことで、彼らから目をつけられていました。

 

父ジュゼッペはほとぼりを冷ますため、息子をロンドンへ行かせます。同級生のポールと合流したジェリ

 

ーは、ヒッピーのパディの寝ぐらに転がり込みますが、彼らとケンカして訣別します。公園のベンチで寝

 

ていたチャーリーというホームレスの老人になけなしの小銭を恵んだ彼らは、通りかかった高級娼婦が落

 

とした鍵を拾って部屋へ忍び込み金を盗むなど相変わらずの無軌道ぶりです。その頃、ロンドンから約50

 

キロ離れたギルフォードでパプが2軒爆破されます。アイルランドの実家に帰ったジェリーは、爆破を

 

IRAの犯行とにらむ警察に容疑者として逮捕され、ロンドンに連行されてしまいます。ポールやヒッピ

 

ー仲間のパディ、キャロル(ビーティ・エドニー)も逮捕され、二日前に成立したテロリスト防止法によ

 

って彼らは拘留されます。この法律は証拠が無くても逮捕が出来るという恐るべきものでした。更にジェ

 

リーの父や叔母一家も共同謀議で逮捕されてしまうのです。繰り返し行われる当局の厳しい尋問と恫喝や

 

暴力に屈したジェリーとポールは供述書に薯名してしまいます。2人は無期懲役、父ジュゼッペは12年の

 

懲役刑を宣告されます。冤罪の作られ方はどこの国も同じだと実感させられます。ジュゼッペは僅かな望

 

みを託し、再審を訴え続けて市民団体に手紙を書き続けますが、ジェリーはふてくされてしまって無為な

 

日々を送っていました。やがて彼が不真面目な態度を取り続ける理由が次第に明らかになってきます。あ

 

る日、IRAの闘士ジョーが刑務所に送られ、例の爆破は自分の犯行で当局は真相を知っていながら隠し

 

ていると告白します。その頃ジュゼッペは、次第に健康を害していきやがて獄中で無念の死を遂げます。

 

事件から10年以上が経過し、父の死を切っ掛けにジェリーは汚名を晴らすため、再審請求運動に身を投じ

 

ていきます。ジェリーたちの再審を引き受けた女性弁護士ピアースは千歳一隅ともいうべき僥倖から警察

 

当局の不正の証拠を握ります。ラストの裁判のシーンの迫力は相当なものです。今は歴史となった北アイ

 

ルランドとイギリスが互いに憎しみ合い戦っていた時代の物語です。