2012/9月掲載
「天地明察」「鍵泥棒のメソッド」-2 「夢売るふたり」 「デンジャラス・ラン」 「トガニ」 「エイトレンジャー」
「トータルリコール」 「おおかみこどもの雨と雪」 「あなたへ」-2
天地明察
2012年 日本 上映時間2h21<予告篇>
STAFF
監督・・・滝田洋二郎
脚本・・・加藤正人
滝田洋二郎
撮影・・・浜田毅
音楽・・・久石譲
CAST
安井算哲・・・岡田准一
えん・・・・・宮崎あおい
水戸光圀・・・中井貴一
保科正之・・・松本幸四郎
関孝和・・・・市川猿之助
「おくりびと」「壬生義士伝」の滝田洋二郎監督作品です。
時代は江戸前期、それまで800年にわたり使われてきた中国の暦の誤りを正し、日本独自の暦を作り上げた
安井算哲(岡田准一)の物語です。もともとは碁をもって徳川家に仕える「碁打ち衆」の家系に生まれた
算哲でしたが、夜空を観るのが大好きで天体の動きや算術にも詳しく、それゆえ会津藩主・保科正之の命を受け、
日本各地で北極星の高度を測りその土地の位置を測定する旅に出ます。その途中、今まで使われてきた暦と
現在の天体の間にズレがあることに気づきます。旅から帰った算哲はこの暦を正す改暦の大事業を担うことに
なるのですが、それは気の遠くなるような歳月を要し、同時にそれまで暦を司って来た朝廷から利権を奪うことを
意味していました。
天体を測る数々の機器も良く作られており説得力充分です。なにより2時間21分の長尺を全く飽きさせずに
観せてくれるのはさすがに滝田洋二郎監督だと感心しました。総じて見応えのある作品でしたが、それだけに
主人公の「軽さ」が少し気になり、思わず「おくりびと」コンビの本木雅弘ならどう演じただろうかと
思ってしまいました。
とはいえ、全く知らなかった安井算哲の業績を知ることのできるこの映画は一見の価値ありです。
個人的にはその昔、学生時代に習った関孝和が絡んでいたことと彼と算哲の算術合戦を面白く鑑賞しました。
(2012/9/25 紅孔雀)
鍵泥棒のメソッド
2012年 日本 上映時間2h08 <予告篇>
CAST
櫻井武史・・・・・・・・・堺雅人
コンドウ/山崎信一郎・・・香川照之
水嶋香苗・・・・・・・・・広末涼子
工藤純一・・・・・・・・・荒川良々
井上綾子・・・・・・・・・森口瑤子
STAFF
監督・脚本・・・内田けんじ
撮影・・・・・・佐光朗
音楽・・・・・・田中ユウスケ
内田監督の一連の作品は特に導入部に説得力があります。この作品も殺し屋コンドウ(香川照之)が
一仕事終えた後、帰ろうとしますが渋滞につかまりイライラしているそばに銭湯があり汗を流しに入ります。
そんなにのんびりしていてもいいのかな、と思いますがこれにも理由がありました。一方、櫻井武史(堺雅人)は
売れない役者生活に生きる気力を無くしています。何気なくポケットの中をさぐり入浴券を見つけ浴場に
いきます。その銭湯でコンドウが転倒し脱衣ロッカーの鍵が櫻井の足元に転がってきます。生活を変えたかった
櫻井はとっさに自分の鍵とすり替えますが…。殺し屋になってしまった櫻井。一方、転倒のショックで記憶喪失と
なったコンドウは自分は役者だと思い込み必死の努力を始めます。
全ての物事に理由付けがされていて納得します。
いつものように小さな世界に封じ込めた内田ワールドです。香川照之の硬軟使い分けるうまさが突出しています。
他の役者との引き出しの違いを見せつけてくれます。(2012/9/21 紅孔雀)
いきなりの婚活宣言、いきなりの殺人、いきなりの自殺未遂場面、この三つがどう結びつくのかと思うが、
『運命じゃない人』『アフタースクール』の内田けんじ監督なので、何の心配もいらない。小ネタを挟みながら、
きれいに絡んでいく。笑いながらドキドキして、最後にキュ~ンとなる、何を見ようか迷った時には一番のお勧め
です。(2012/9/17/シネツイン・新天地にて I )
夢売るふたり
2012年 日本 上映時間 2h17 <予告篇>
CAST
市澤里子・・・松たかこ
市澤貫也・・・阿部サダヲ
棚橋咲月・・・田中麗奈
睦島玲子・・・鈴木砂羽
太田紀代・・・安藤玉恵
木下滝子・・・木村多江
堂島哲治・・・笑福亭鶴瓶
STAFF
監督・脚本・・・西川美和
撮影・・・・・・柳島克己
音楽・・・・・・モアリズム
変幻自在・自由奔放・余裕綽々 ― 西川美和監督が更なる進化を見せてくれます。
実のところ「ゆれる」を観たときこれを越える作品は出来ないだろうと思っていました。
こんな映画をあの若さで作ってしまって今後どうするんだろうと危惧もしていたのです。
この作品だって夫婦で始めた居酒屋が火事になりその再建のために結婚詐欺をはたらくという突飛すぎて
面白くも可笑しくもない話です。しかし、その心配は杞憂におわりました。女性らしい実に緻密なシナリオです。
演出は堂々たるもので、しかも容赦がありません。まさに寸止めの演出ぶりで、しかも先端を小さな笑いで包んで
しまいます。そのベテラン監督のような手練手管に感心します。その意味ではある種の天才でしょう。
あの優しそうな笑顔でどうやって俳優陣を役に成りきらせるのかぜひこの目で観てみたいものです。
唐突に表れ一見、意味のないシーンに思えても、やがてそれが伏線だったことが判ってきます。
気遣いの人でもあります。ファーストシーンで主な役者の名前が単独で表示されます。これはどの映画でも同じで
すが、続いて照明・美術・録音・スクリプター等々裏方の名前も単独でクレジットされるのです。
そのあとにタイトル「夢売るふたり」が浮き上がります。こんな扱いをされたら裏方だって監督のために
必死にならざるをえません。彼女の思考の一端を垣間見た気がしました。映画というものを良く知り計算され
つくした演出ぶりにも感心します。一例をあげると笑福亭鶴瓶はラスト近くなって登場しますが彼の役どころは
私立探偵です。あることがあって彼の体の一部がほんの数秒見えます。それだけでどういう種類の私立探偵かを
観客に一瞬で判らせてしまいます。それは別に見せなくてもストーリーに破綻はないシーンなのです。
そのあと鶴瓶がむせながら煙草を吸うシーンがありますが、これも重要なシーンです。
細部に渡って手間を惜しまない。まさに「映画は映像に語らせる」優れた場面です。
あと特筆すべきは松たか子です。西川演出に応えて内面からにじみ出る女心を文字通り眼に物を言わせ大胆に
そして見事に演じてみせてくれます。更なる高みへ大化けの予感がします。ぜひ出演作品を選んでほしいもので
す。少し長尺ですが西川ワールドに翻弄されてください。ストーリーよりも演出に注目。R15+です。
(2012/9/12 八丁座にて 紅孔雀)
デンジャラス・ラン
2012年 アメリカ 上映時間1h55 <予告篇>
CAST
トビン・フロスト・・・・・・・デンゼル・ワシントン
マット・ウェストン・・・・・・ライアン・レイノルズ
キャサリン・リンクレイター・・ヴェラ・ファーミガ
デヴィッド・バーロー・・・・・ブレンダン・グリーソン
ハーラン・ウィットフォード・・サム・シェパード
STAFF
監督・・・ダニエル・エスピノーサ
脚本・・・デヴィッド・グッゲンハイム
撮影・・・オリヴァー・ウッド
音楽・・・ラミン・ジャヴァディ
業界では「デンゼルに外れなし」と言われているそうです。この作品も例外ではなくアメリカ2012年2月
公開後、5月時点で早くも製作費の2倍超を稼ぎ出しています。物語はは南アフリカ、ケープタウンのアメリカ
総領事館に伝説のCIA工作員で「裏切り者」トビン・フロスト(デンゼル・ワシントン)が出頭してきます。
出頭した理由は不明です。トビンはCIAの保護下に置かれますが、その直後から謎の暗殺集団に襲われ始めます。
トビンはCIAの新人工作員マット・ウエストン(ライアン・レイノルズ)とともに逃げ回るはめになるのですが
トビンにはどこかそんな事態も織り込み済みの様子があります。ストーリーには既視感がありますが
カーチェイスや弾丸の乾いた発射音、アクションシーンなどに新味があります。短いカットの繰り返しで
スピード感を出そうとしているのですが、やり過ぎて良くわからない場面もあります。
ラストでトビン・フロストの目的が明かされます。謎の暗殺集団の凄味がこの映画の面白さの一翼を担って
います。それにしてもデンゼル・ワシントンの演技力・存在感には今更ながら感心します。
そろそろ「フィラデルフィア」や「ハリケーン」などのようなシリアスな物語のなかでのデンゼル・ワシントンの
演技に浸ってみたい、そんな気がします。 (2012/9/10 紅孔雀)
トガニ 幼き瞳の告発
2011年 韓国 上映時間2h05 <予告篇>
CAST
カン・イノ・・・・・コン・ユ
ソ・ユジン・・・・・チョン・ユミ
キム・ヨンドゥ・・・キム・ヒョンス
チン・ユリ・・・・・チョン・インソ
チョン・ミンス・・・ペク・スンファン
STAFF
監督・脚本・・・ファン・ドンヒョク
撮影・・・・・・キム・ジヨン
音楽・・・・・・モグ (Mowg)
R-18です。「感動した」とか、「いい映画だった」の範疇には入りません。凄まじい映画です。怒りで体が震えます。
韓国の聴覚障害者学校で実際に起きた事件の映画化です。2000年から6年もの間、校長を含む複数の教師が男女生徒に
性的虐待を加えており、しかも事件が発覚してもなお教壇に立ち続けていたのです。子役たちの演技が真に迫っています。
物語はカン・イノが恩師の紹介で霧の街・ムジンの聴覚障害者学校慈愛学園に美術教師として赴くところから始まります。
亡き妻との間に生まれた一人娘ソリを母に預けての赴任です。教室は重苦しい空気に包まれています。
けがをしている子もいます。原因は早々に分かります。凄まじい虐待です。イノは地元の人権センターの幹事ユジンと
協力して裁判に持ち込みます。法廷でのやり取りも実にリアルで卑怯者の姿をあぶりだします。
不利になった被告側がありとあらゆる手を使って示談に持ち込もうとします。貧富の差が貧しい者を鞭打つのです。
初めは「長いものには巻かれろ」と言っていたイノの母親が裁判を傍聴して息子の行動を理解するところに
救いがあります。日本ではどうなのだろうかと思ったりもします。
イノは終始冷静に対応しますが、途中、堪忍袋の緒が切れて思わずとった行動に溜飲が下がります。
そしてその行動が子供たちの信頼を勝ち取るのです。
韓国では460万人を動員しています。この映画が作られた後、韓国国内で激しい非難の声が持ち上がり政府は
虐待に対する厳罰化の方針を打ち出し「トガニ法」が制定されました。ちなみにトガニとは坩堝(るつぼ)のことです。
演出はあくまでも正攻法で容赦なく観客に迫ってきます。《こんな悪役、良く引き受けたな》と変なところで
役者に同情もし、感心もしてしまいます。多分よその国の映画だから何とか一定の距離を置いて観ることが出来たのだ
とおもいます。ちなみに原作本を翻訳しているのは蓮池 薫さんです。(2012/9/4 紅孔雀)
エイトレンジャー
2012年 日本 上映時間1h50 <予告篇>
2035年の日本、人口は7千万人を割った超少子高齢化社会、
大都市は堀で囲まれ、優秀な子供とその家族、高額納税者が住み、
それ以外は、テロリストが横行するスラム街に押し込められた。ねぇ、設定だけ聞くと面白そうでしょ。
元は、関ジャニ8がコンサート内でやってた戦術物パロディーコントだと。
関ジャニとは関西ジャニーズのことね。ファンサービスという名の搾取映画に文句つけてもしょうがない。
スクリーンにアイドルが写ってれば満足だろうし。観るべきは悪役のベッキ―。彼女だけは凄い。
それだけ。(Y)
トータル・リコール
2012年 アメリカ 上映時間1h58 <予告篇>
1990年のアーノルド・シュワルツネッガー版は、輪切りになった
おばさんの中からシュワちゃんが出て来た映像くらいしか記憶にないが、
今年のコリン・ファレル版は22年後には見た事も忘れてそうだ。
車が飛んでたり、地球の裏側までトンネルでつながってたりしても、もう驚かないし…。
内容も、好きな記憶を植えつけられるというのは、「何でも有り」過ぎだからか、どんな展開になっても、
ドキドキ、ハラハラしない。(I)
おおかみこどもの雨と雪
2012年 日本 上映時間1h57 <予告篇>
おおかみ男と人間の女性の間に子供ができるなんてトンデモない
設定なのでどう説得してくれるのかと思っていたが
最後まで違和感が拭えなかった。二人の子供、姉の雪・弟の雨。
子供たちが成長するとおおかみの本性が現れ街中には住めなくなり山奥に
引っ越す。そのことが雨のおおかみとしての本能を更に呼び覚ます。母はうろたえるがそれまでにも
兆候はあったのだから当然の帰結だ。絵はリアルで美しい。それだけにストーリーとのズレが際立つ。
評価は両極端に分かれるだろう。(M)
あなたへ
2012年 日本 上映 1h51 <予告篇>
CAST
倉島英二・・・・高倉健
倉島洋子・・・・田中裕子
杉野輝夫・・・・ビートたけし
南原慎一・・・・佐藤浩市
田宮裕司・・・・草彅剛
濱崎多恵子・・・余貴美子
濱崎奈緒子・・・綾瀬はるか
STAFF
監督・・・・降旗康男
脚本・・・・青島武
撮影・・・・林淳一郎
音楽・・・・林祐介
降旗監督とのコンビ特有の、「駅」や「鉄道員」に繋がる寡黙な映画です。
やはり81才になると、少しそらし気味の立ち姿、歩く姿に年齢が出ていて、最後あたりの「寅さん」の渥美清を
見るような、痛々しさのようなものを感じてしまいました。
特に竹田城に登るところは苦しそうでしたが、日本のマチュピチュとか、雲上の城といわれる風景が、
妻に先立たれて、取り残された気持の健さんの気持を現しているようでした。
しかし、凄いロングショットでしたね。
「明日に向かって撃て」の中で、ブッチとサンダンスの2人を執拗に追い掛けてくる人馬の姿の
ロングショットが、「何ともしつこい!」という気分を湧かせたような場面でした。
宮澤賢治の「星めぐりの歌」を、田中裕子が歌いますが、私の好きな歌でもあるせいか、特に哀調を帯びていて
心に残ります。
そう言えば、花巻の郊外にあった賢治記念館でも、この歌を聞きました。
「いつか読書をする日」の田中裕子はとてもよかったですが、あの埴輪のような雰囲気の顔は、いつまでも
年を取らないですね。
また、大好きな大滝秀治の姿も見れたし、細やかな散骨のシーンもいいです。
後で、モントリオ-ル世界映画祭で特別賞受賞というニュースが流れたので、観客が増えそうですね。
(2012/9/8 い)
共演者の誰もが「これが健さんの最後の作品になるかもしれない」との思いを抱いて演じています。
そのことが画面を通して伝わってきます。とりわけビートたけしや佐藤浩市にそれを強く感じました。
降旗監督自身そう思いつつ演出したに違いありません。
いかに健さんといえども役柄を大転換した「幸福の黄色いハンカチ」から35年。さすがに当時の体力は
ありません。でもその存在感は少しも変わりません。名前で客が呼べる最後のスターではないでしょうか。
だから健さんの、健さんによる、健さんのための映画です。
健さん― 倉島英二は富山刑務所で受刑者に木工技術を教える技官です。妻を亡くしたばかりです。
妻は歌手でしばしば慰問に来ていました。結婚にいたる過程は詳しくは描かれません。
その妻が二通の手紙を残していました。一通目には「遺骨は故郷の海に散骨してほしい」と書かれており、
もう一通はその妻の故郷、長崎県平戸の郵便局留めになっているのです。
倉島は退職後に妻と旅をするために改造中だったキャンピングカーで出かけていきます。
途中、色々な人と出会いその人たちの人生と否応なく関わることになります。
妻はなぜわざわざ平戸に局留め郵便を出していたのでしょうか。
劇中 田中裕子が歌う「星めぐりの歌」(宮沢賢治作詞・作曲)がしみじみとした味わいを醸し出します。
(2012/8/30 紅孔雀)