2013/3月掲載
<短評ー「おだやかな日常」「だいじょうぶ3組」「愛について、ある土曜日の面会室」「ゼロ・ダーク・サーティ」>
「愛、アムール」 <短評ー「レ・ミゼラブル」「ゼロ・ダーク・サーティ」「王になった男」 >
「フライト」「二つの祖国で 日系陸軍情報部」
おだやかな日常
上映時間 1h42 <予告篇>
2012年の日本映画部門で、私自身、第3位にしたのが園子温監督の
『希望の国』。「3・11」(震災)に正面から向き合った力作と
評価した。同じ「3・11」を題材にしても、こちらは「おだやか」を
求めても、なかなか手に入れられない現実を、二組の夫婦を柱に描く。広島出身の杉野希妃さんが主演だけで
なく、プロデューサーも務める。敬愛する評論家・佐藤忠男氏もキネマ旬報ベスト10(2012年)で、
ただ一人1位に挙げていた。「3・11」からもうすぐ2年。風化しつつある今こそ、見てほしい映画である。
(F)
だいじょうぶ3組
上映時間 1h58 <予告篇>
ベストセラー『五体不満足』の著者、乙武洋匡の自伝的小説の
映画化。乙武さんが本人役で出演している。
3年間、小学校で教鞭を取った体験を涙と笑いで描く。
主人公の補助教員を国分太一が演じている。
生まれつき手足がない赤尾先生(乙武)と、その補助教員の白石先生(国分)。幼なじみでもある2人は、
お互いに悩み、助け合いながら、個性豊かな28人の子どもたちに真正面からぶつかっていく。
劇中の授業に取り上げられる、金子みすゞの詩「みんなちがって みんないい」が、しみじみと心に染み入る。
(T2)
愛について、
ある土曜日の
面会室
上映時間 2 h <予告篇>
少女は出会って間もなく逮捕された恋人に会う為に、アルジェリア人の母は息子を殺した犯人に会う為に、
男は自分に瓜二つの受刑者と入れ替わる為に、マルセイユの刑務所へ行く。同時に同じ面会室にいたこと以外、
何の接点も無い3人の物語に人生の奥深さを考えさせられる。刑務所の面会人へのボランティアを3年間務めた
監督自らの経験に着想を得たということだが、28歳のデビュー作とは思えない細やかさで描かれた、登場人物
たちの世界に引き込まれていく。(みかん)
ゼロ・ダーク・
サーティ
上映時間 2h38<予告篇>
ビンラディン捜索実話物で、面白い!良くぞ作ったという感じ!
画面に緊迫感がみなぎる。女性情報分析官(高校でスカウト!
日本とレベルがまるで違う)の執念と情報戦の凄さを感じる。
音楽の使い方も上手い。ステルス型ブラックホークというのがあるんだと、初めて知った。CIA全面協力で、
如何にも米国ナンバーワンという感じがするが、米国の軍事力が突出しているのは事実(第7艦隊まであって、
しかも全てスペアーを有する)だから致し方なし。でも、完全にパキスタンへの主権侵害だよな。(T・M)
愛、アムール
2012年製作 フランス・ドイツ・オーストリア製作
上映時間2h7 <予告篇>
STAFF
監督・・・ミヒャエル・ハネケ
脚本・・・ミヒャエル・ハネケ
撮影・・・ダウリス・コンジ
CAST
ジョルジュ・・・ジャン=ルイ・トランティニヤン
アンヌ・・・・・エマニュエル・リヴァ
エヴァ・・・・・イザベル・ユベール
パリ都心部のアパートで静かに暮らしているのはジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ
(エマニュエル・リヴァ)の老夫婦です。ふたりは元音楽家でした。ある日、夫婦でアンヌの愛弟子の
ピアニスト、アレクサンドルの演奏会へ赴き、豊かな気分で帰ってきます。
翌日、いつものように朝食を摂っている最中、アンヌに小さな異変が起こります。突然、人形のように動きを
止めた彼女の症状は、脳の病気による発作であることが判明しますが、手術はうまくいきませんでした。
アンヌは不自由な暮らしを強いられますが入院を拒みます。医者嫌いの彼女の切なる願いを聞き入れ、
ジョルジュは車椅子生活となった妻とともに暮らすことを決意します。しかし思い通りにならない体に苦悩
し、ときに「もう終わりにしたい」とアンヌが漏らすようになります。アンヌの病状は確実に悪化し、心身は
徐々に普通の状態から遠ざかっていきます。娘のエヴァは母の変化に動揺を深め、あれこれと口は出しますが
それだけのことです。ジョルジュは献身的に世話を続けます。しかし、看護師に加えて雇ったヘルパーに心な
い仕打ちを受けた二人は、次第に家族からも世の中からも孤立していきます。やがてジョルジュはうつろな意
識のアンヌに向かって、懐かしい日々の思い出を語り出すのでした。
いくら福祉制度の整ったフランスであっても人の心の闇までは入り込めません。人生のケリのつけかたについ
て考えてしまいました。エマニュエル・リヴァの演技に注目です。映画音楽は一切ありません。
サロンシネマにて(紅孔雀)
レ・ミゼラブル <予告篇>
2月終わり頃に、八丁座の1回上映のジャン・バルジャン
(レ・ミゼラブル)を見ました。昔は、イギリス辺りでも
窃盗は死刑だったりしたらしいですが(中国映画の「再生
の朝」を思い出します)、子どもの頃に読んだ世界名作
全集の「ああ無情」で、パン1個で刑務所にとは何かひどいなという印象がありました。
また、ジャン・バルジャンを追う警官の、余りにもの執拗さにはついて行けませんでした。そう言えば、
ルパンを追い掛ける刑事も、逃亡者を追う刑事も、彼がモデルかも知れませんね。映画は、出だしのド迫力、
「ボルガの船曳」のような歌から始まり、掛け合い、ソロも含めて、ほとんどのセリフが歌なのに、さほどの違和感
もなし。歌の迫力と映像に圧倒されました。主役らの面々は別にして、いつもクセのある悪役?がピッタリの、
ヘレン・ボナム=カーターの宿屋の女主人がはまり役でした。 2013/3/5(い)
ゼロ・ダーク・サーティ
<予告篇>
「ゼロ・ダーク・サーティ」は、CIA云々を横に置けば、
執拗と言うか、突き詰めるというか、徹底したプロの分析、
追求の姿をクールに描き出しています。ある週刊誌の映画評に、
まるで「忠臣蔵みたいだ」とあったのに同感。何年もかけて
リサーチ、準備し、寝入りばなに討ち入り、吉良の居場所を探す、そして・・・確かに。
主人公のJ・チャステインが極めてクールで、「ヘルプ 心がつなぐストーリー」の中の、金持ちと結婚した
貧しい生まれの金髪グラマーで、白人マダムから袖にされる彼女と同じ役者とは思えませんでした!!
2013/3/5(い)
王になった男 <予告篇>
「王になった男」は、テレビの「チャングム」や「イサン」の韓国
宮廷ドラマで見たような宮殿、風景、重臣や内官らの様子が、
映画的にスケールアップしてます。影武者話は、武田信玄にも
徳川家康にもあり、隆慶一郎や荒山徹らの時代小説がありますが、
影武者ならばこその価値観が動き出すズレの面白さがツボです。
これも、15日間の王の代役を努めざるを得ない中で、民衆の中の道化師だからこその発想、思い、言葉がジワッと
周りを変えていく。あり得ない話の面白さと、セリフのない終わりがホッとします。 2013/3/5(い)
フライト
2012年 アメリカ 上映時間2h19 <予告篇>
STAFF
監督・・・ロバート・ゼメキス
脚本・・・ジョン・ゲイティング
撮影・・・ドン・バージェス
音楽・・・アラン・ジルヴェストリ
CAST
ウィップ・ウィトカー・・・・デンゼル・ワシントン
ヒュー・ラング・・・・・・・ドン・チードル
ニコール・マッゲン・・・・・ケリー・ライリー
ハーリン・メイズ・・・・・・ジョン・グッドマン
チャーリー・アンダーソン・・ブルース・グリーンウッド
「英雄か」「犯罪者か」というこの映画の惹句はズレています。これはアル中の話です。ウィップ・ウィトカー
(デンゼル・ワシントン)は凄腕のパイロットです。しかし、アルコール依存症でもあります。毎日のように酒を
飲み、搭乗中にもジュースにジンを混ぜて飲んだりしています。何度も止めようとして家中の酒を捨てたりも
しますが、また手を出してしまうのです。困ったことに自分がアルコール依存症だと認めていません。
そのせいで離婚する羽目にもなっています。さらに搭乗日には覚醒するためにコカインを吸ったりもする始末
です。全くあきれたバカ野郎です。要するに生活破綻者なのです。その彼が搭乗した飛行機が離陸直後に乱気流に
巻き込まれ機体は揺れに揺れます。しかしそこは凄腕、見事に乗り切って乗客の拍手を浴びます。しかしやがて
機体は制御不能に陥り墜落寸前の所を何とか不時着させることに成功します。乗員、乗客102名中96名を救うと
いうまさに神がかり的な操縦技術でウィップは世間から称賛されます。でも、彼の血液中からアルコールが
検出され・・・・。
デンゼル・ワシントンはだらしない男の体型をつくるために「とにかく食べまくった」そうです。その効果は
抜群で緩んだ肉体がアル中男にぴったりです。ストーリー的にはあまり目新しいものはありません。
最初のトラブルシーンでの背面飛行などは臨場感もあり迫力満点ですが、その後はウィップの葛藤が中心になり
ます。不時着後ウィップが入院中に出会ったやはり薬物依存症の女性ニコールと、こっそり煙草を吸いに来た
末期がんの男の三人が階段で話をするシーンは死を目前に控えている者と死の淵でさまよっている者の会話として
示唆に富んでいます。公聴会出席前夜、ウィップが思わず酒に手を出してしまうシーンのプロセスにもシナリオの
妙を感じました。宣伝文句につられサスペンス映画だと思うと失敗します。これはアルコール依存症からの再生の
物語です。最後に人としての在り様を問われます。そう思って鑑賞すると全く別の作品になります。
2013/3/3 バルト11<紅孔雀>
二つの祖国で 日系陸軍情報部
日本映画 2012年公開 ドキュメンタリー 上映時間1h40 <予告篇>
監督・企画・脚本・・・すずきじゅんいち
音楽・・・・・・・・・喜多郎
太平洋戦争時、日米両国で差別された日系2世たちの歴史をひも解くドキュメンタリーで
す。米国陸軍の秘密情報機関「MIS(ミリタリーインテリジェンスサービス)」の中心
メンバーだった日系2世の元兵士たちの証言をもとに、太平洋戦争時の米国側の極秘情報
も取り上げて描いています。米国籍をもちながらも人種差別を受けていた日系2世たち
は、それでも自身の祖国である米国のため、両親の祖国・日本との戦争を受け入れざるをえませんでした。
彼らは通信解読や捕虜の尋問など日本語を英語に翻訳することを主な任務としていました。長く沈黙していた80人近い
元兵士にインタビューを敢行し、2つの祖国への思いを聞いているのですが時折り混ざる日本語が彼らの置かれた立場を
想起させ胸に迫ります。
「東洋宮武が覗いた時代」(2008)、「442日系部隊アメリカ史上最強の陸軍」(2011)で第2次世界大戦時の日系人たちの
歴史を追ってきたすずきじゅんいち監督による日系史映画3部作の最終作です。442部隊のことはそれなりに知って
いましたがこのMISのことは全く知りませんでした。中には兄弟で敵味方に分かれて戦った人もいます。
全員が80歳後半から90歳になっていますが、その語り口はまるで昨日のことのように鮮明で当時を思い出し、涙しながら
語る元兵士も一人や二人ではありません。また、日米両軍や民間人に多数の死傷者を出した沖縄でもロケを行い、
沖縄戦の悲劇も映し出しています。日系四世の世界的ウクレレ奏者ジェイク・シマブクロ、沖縄出身の国際女優で
「ベストキッド2」のタムリン・トミタも出演し若い世代からのメッセージを語っています。
広島への原爆投下直後の様子を含め豊富な過去の映像やインタビューから浮かび上がってくるのは日本は負けるべくして
負けたということです。“日本軍は通信に暗号を殆んど使っていなかったので翻訳が簡単だった”など あきれるような事実
が明らかにされています。文字通りの労作です。 3月16日より八丁座にて公開予定 2/12試写会にて紅孔雀