2013/4月掲載

「ヒッチコック」「約束~名張毒ぶどう酒事件 ある死刑囚の生涯~」「君と歩く世界」


(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
(C) 2012 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 

ッチコック 

 

2013年日本公開 アメリカ映画 上映時時間139 

 

STAFF

 監督・・・サーシャ・ガヴァシ

 脚本・・・ジョン・マクラフリン

 撮影・・・ジェフ・クローネンウェス

 音楽・・・ダニー・エルフマン

 

  

 CAST

  アルフレッド・ヒッチコック・・・アンソニー・ホプキンス

  アルマ・レヴィル・・・・・・・・ヘレン・ミレン

  ジャネット・リー・・・・・・・・スカーレット・ヨハンソン

  ヴェラ・マイルズ・・・・・・・・ジェシカ・ビール

 

 1959年、「北北西に進路を取れ」を大ヒットさせたアルフレッド・ヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)

 

 は、次回作の題材を探していて、実在の殺人鬼エド・ゲインをモデルとした小説「サイコ」と出会います。

 

 しかし血生臭い内容に躊躇するパラマウントに出資を拒否され、自主制作を決意したヒッチコックは、

 

 自宅を抵当に入れて資金を調達します。撮影準備のドタバタが続く中、ヒッチコックはふとした切っ掛けで

 

 長年連れ添った妻のアルマ(ヘレン・ミレン)が、脚本家のホィットフィールド(ダニー・ヒューストン)と

 

 浮気しているのではと疑い始めますが・・・。試写で「サイコ」を酷評されたヒッチコックは妻のアドバイスで

 

 自ら編集し直します。そして「サイコ」はサスペンス映画の金字塔となるのです。

 

 サスペンスの帝王アルフレッド・ヒッチコックと、その妻で編集者・脚本家のアルマ・レヴィルの関係性を描き

 

 ながら、傑作サスペンス「サイコ」(1960年)の成功の裏に隠された知られざる物語を描く伝記ドラマです。

 

 美女大好きで、惚れっぽく、粘着質で、皮肉屋で、ストーカー体質。けれども女心は理解できず、妻の浮気を

 

 疑いながら、同時に娘ほどの年齢の女優に冷たくされてガッカリ落ち込んでしまう様子はどこか可愛げでも

 

 あります。「サイコ」のシャワー・シーンで有名な女優ジャネット・リーをスカーレット・ヨハンソンが演じて

 

 います。オープニングで「北北西に進路を取れ」の劇場公開風景を見せ、ラストシーンで「サイコ」の次の

 

 作品「鳥」を予告するシーンを挿入するなど1950年代にテレビで放映された「ヒッチコック劇場」を彷彿と

 

 させるおしゃれな作りになっていて往年のヒッチコックを知らなくても楽しめます。でも「サイコ」を鑑賞して

 

 おくとより深く楽しめます。

                               2013/4/20 サロンシネマ  <紅孔雀>

 


 (C)東海テレビ放送
 (C)東海テレビ放送

 

 約~名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯~

 

  2012年東海テレビ製作 日本映画 上映時間2

  

  

 

  監督・・・・・・齋藤潤一  

  奥西勝・・・・・仲代達矢 / 山本太郎  

  母・タツノ・・・樹木希林

  川村富左吉・・・天野鎮雄

  ナレーター・・・寺島しのぶ

 

 

齋藤潤一監督
齋藤潤一監督

 名張毒ぶどう酒事件の再現ドキュメンタリーです。

 

 東京オリンピックを控え、高度経済成長に沸く1961年。

 

 三重県名張市の山間にある葛尾という小さな村で農業に

 

 勤しむ35歳の奥西勝(山本太郎)は、妻・千恵子と

 

 13歳の息子、5歳の娘とともに暮らしていました。

 

 328日、毎年恒例の村人たちの懇親会が行われますが、

 

 間もなくぶどう酒を口にした女性たち15人が倒れ、

 

 千恵子を含む5人が死亡。警察は殺人事件として捜査を開始します。これが“名張毒ぶどう酒事件”と呼ばれる事件の

 

 始まりでした。重要参考人として連行された奥西は、事件から6日後に逮捕。三角関係を清算するため、妻と

 

 愛人の毒殺を計画し、ぶどう酒に農薬(ニッカリンT)を入れたと『自白』したのです。だが奥西の言葉はその後

 

 一転、自白を強要されたとして、無罪を主張します。この事件は、物的証拠がほとんどなく、奥西の自白が逮捕の

 

 決め手でした。1964年、津地方裁判所の小川潤裁判長は、自白は信憑性がなく、物的証拠も乏しいとして、無罪を

 

 言い渡します。しかし、検察側が控訴。5年後の1969年、名古屋高等裁判所で一審の無罪判決が破棄され、

 

 死刑判決が言い渡されます。そして1972年、最高裁で死刑が確定します。その後、人権団体(国民救援会)の

 

 川村富左吉との出会いをきっかけに弁護団が結成され、繰り返し再審請求が行なわれるのですが、ことごとく

 

 棄却されます。しかし、弁護団の粘り強い調査により毒物として使用されたと検察が主張する「ニッカリンT」の

 

 色や成分、王冠に付いた『歯型』など次々と疑問点が出てきます。また、村人の証言が事件後と警察の

 

 事情聴取後で180度変わり、ことごとく奥西犯人説に偏っていく過程も明らかにされていきます。

 

 2005年に名古屋高等裁判所でようやく再審が決定したものの、検察の異議申し立てにより、再び棄却。

 

 事件から40年以上を経て、事件関係者や息子の無罪を信じ続けた奥西の母・タツノ(樹木希林)は次々とこの世を

 

 去りました。

 

 70歳を越えた奥西さんはガンにより胃の2/3を摘出しています。更に悲しいことに当時13歳だった息子さんは

 

 62歳で帰らぬ人となってしまっていることです。彼がどんな人生を送ったのか想像すらできません。

 

 上映終了後、齊藤潤一監督・山本太郎さん・河合匡秀弁護士によるトークがあり奥西さんが肺炎になって八王子

 

 医療刑務所に移送されても当初は手錠を掛けたまま治療をしていたそうです。

 

 (現在は嚥下障害のため食事は出来ず点滴のみ)また、スタッフが村人に取材をするとカメラを回すとダンマリ

 

 ですが、回さなければ〈奥西さんは犯人ではないかもしれない〉と語る人も複数いるそうです。

 

 トーク終了間際に事件現場の葛尾出身で広島在住の人が発言され「自分の両親は当時懇親会に出席していて

 

 ぶどう酒を飲んだ。幸いに命に係るほどではなかったがその後、村は鬱陶しく暗い村になってしまった。

 

 奥西さんには一日も早く無罪になって欲しい」との発言がありました。

 

 弁護団の鈴木泉弁護士は“奥西さんに死刑宣告した50人以上もの裁判官の責任を問いたい”と語っています。

 

 奥西さんの今後を考えるとき何だか「帝銀事件」の平沢さんを思いおこさせます。現在最高裁へ特別抗告中。  

 

 監督・スタッフ・キャストの強い意気込みを感じます。          2013/4/7横川シネマ<紅孔雀>  


(C) Why Not Productions - Page 114 - France 2 Cinema - Les Films du Fleuve - Lunanime
(C) Why Not Productions - Page 114 - France 2 Cinema - Les Films du Fleuve - Lunanime

 

 君世界

 

    2012年製作 フランス / ベルギー合作  

    上映時間2h    

 

   STAFF

    監督・・・ジャック・オーディアール

    脚本・・・ジャック・オーディアール

         トーマス・ビデガン

    撮影・・・ステファーヌ・フォンテーヌ

    音楽・・・アレクサンドル・デスプラ

 

 

 CAST

  ステファニー・・・マリオン・コティヤール

  アリ・・・・・・・マティアス・スーナールツ

  サム・・・・・・・アルマン・ベルデュール

  ルイーズ・・・・・セリーヌ・サレット

 

 南仏アンティーブの観光名所マリンランドのシャチ調教師、ステファニー(マリオン・コティヤール)は、

 

 シャチのショーを指揮している最中にステージが崩壊、両足を失う大怪我を負ってしまいます。

 

 過酷なハンディキャップを抱え、生きる希望さえ失っていく日々でしたが、そんな失意のどん底に沈んだ

 

 ステファニーの心を開かせたのはナイトクラブの元用心棒で今は夜警の仕事をしているシングルファーザーの

 

 アリ(マティアス・スーナールツ)でした。彼は他者への愛を表現する術を知らない不器用な男でしたが、

 

 単に同情心でステファニーに接するのではなく、両足がないことを知りながら彼女を海へ誘います。

 

 やがてステファニーは、どこか謎めいていて野性的なアリとの触れ合いを重ねるうちに、すでに諦めていた

 

 生きる喜びを呼び覚まされ、未来へ踏み出す勇気をもつようになっていきます。

 

 あらすじを言えば何だか「最強のふたり」の女性版を想起しますが、キャラクターの掘り下げが中途半端で

 

 ステファニーにもアリにも感情移入することができませんでした。俗に言う〈キャラが立っていない〉というやつ

 

 です。ふたりは、というよりアリは性欲も生活の一部と捉えているようでステファニーとのセックスシーンが

 

 度々でてきます。ステファニーも性の悦びを得て生きることに積極的になっていきますが、ステファニーとアリの

 

 精神的な結びつきに説得力が乏しく、そのためにこの映画のテーマであろう“それぞれの再生”が希薄になって

 

 しまっています。さらにシナリオの弱点だろうと思いますが、ひとつひとつのシーンやエピソードがうまくリンク

 

 していないために置いてけぼりを食った気分にさせられてしまいました。

 

 ラストでのアリの子供に対する感情もいかにも唐突でそれまでほとんど無関心でいたのに急に何なんだと思って

 

 しまいます。ただマリオン・コティヤールの内に秘めた演技と両足を失った部分のCGに全く違和感がなく

 

 技術の進歩には感心します。一昔前だったら観客は本当に両足が無くなってしまったのかと思ったことでしょう。

 

 R15+です。

                                     2013/4/6 バルト11<紅孔雀>