2013/9月掲載

「そして父になる」-2「凶悪」「マン・オブ・スチール」「貞子3D2」「ペンギン夫婦の作り方」「最後のマイウェイ」


(C) 2013『そして父になる』製作委員会
(C) 2013『そして父になる』製作委員会

 

そしてなる

 

20139月公開 日本映画 上映時間 2<予告篇>

 

STAFF

 監督/脚本・・・ 是枝裕和

 撮影・・・・・  瀧本幹也

 

 

 

   

         CAST

          野々宮良多・・・福山雅治

          野々宮みどり・・尾野真千子

          斎木雄大・・・・リリー・フランキー

          斎木ゆかり・・・真木よう子

          野々宮慶多・・・二宮慶多

          斎木琉晴・・・・黄升炫

          石関里子・・・・樹木希林

 

6年間育ててきた息子が取り違えられ他人の子どもだった”誰だって途方に暮れてしまいます。やがて休日を

 

利用してお互いの家庭を行ききし、子どもたちも泊まり合ったりするようになります。月日を経て母親の野々宮

 

みどりと斎木ゆかりは次第に子どもたち(慶多と琉晴)を同じように受け入れていこうとします。

 

父親の野々宮良多は一流建築会社に勤める文字通りのエリートサラリーマンです。一方の斎木雄大は電気の修理

 

業で決して裕福ではありません。良多は息子慶多にあれこれと注文をつけ自分の敷いたレールの上を歩かせよう

 

としますが肝心の子育ては妻みどりに任せっ放しです。斎木の方は暇をみつけては琉晴をはじめ三人の子どもた

 

ちと関わり合っています。壊れたおもちゃを直してくれたりもしますし、母親も稼ぎが少ないことを責めたりは

 

しません。「親になることは女性にとっては現実だが、男性にとっては信仰である」という言葉がありますが、

 

この映画は端的に言えば野々宮良多が琉晴だけではなく普遍的な意味で父親になれるかどうかの物語です。

 

だからこの映画のテーマは「父になる」であり「母になる」でもなく「親になる」でもないのです。周りは

 

「血が大切なんだ」とか「生みの親より育ての親」などとかまびすしく言います。

 

みどりの母親になる樹木希林が相変わらずの自然体で孫に接し、作品に穏やかな時間を与えています。

 

ラスト近くで良多が実子である琉晴の目線まで降りてきて同じ土俵で遊びます。良多の何かが吹っ切れた瞬間で

 

す。深刻なストーリーですが声を荒げることもなく静かに始まり穏やかに終わります。背中を撫でるシーンが

 

良く出てきます。里子が娘のみどりの背中を、みどりやゆかりが子どもたちの背中を優しく撫でるのです。

 

それによって子どもたちは落ちつき安心するのです。

 

是枝監督の作品はさり気ない仕草や言葉を丁寧に積み重ねて物語を構築していくのが特徴ですが、

 

それはこの映画でも見事に発揮されています。個人的には今まで何かと便利に使われてきた真木よう子が

 

是枝監督の的確な演出によって確かな母親ぶりを遺憾なく発揮しているのを嬉しく鑑賞しました。

 

平日とはいえ混んでいることを予想して30分前に行きましたが残りは数席しかありませんでした。  

 

                                   2013/9/26 八丁座 <紅孔雀>

 


(C) 2013「凶悪」製作委員会
(C) 2013「凶悪」製作委員会

 

凶 

 

2013年製作 日本映画 上映時間208 <予告篇R15

 

      STAFF

 

       監督・・・白石和彌

       脚本・・・高橋 泉

            白石和彌

       撮影・・・今井孝博

       音楽・・・安川午朗 

 

                       CAST

 

                        藤井修一・・・山田 孝之

                        須藤順次・・・ピエール瀧

                        木村文雄・・・リリー・フランキー

                        藤井洋子・・・池脇千鶴

 

雑誌「明潮24」に東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤から手紙が届きます。記者の藤井は上司から話を聞きにい

 

くように言われます。面会した藤井に須藤はとんでも無いことを口走ります。なんと警察も知らず、従って罪に

 

も問われなかった3件の殺人事件とその首謀者である「先生」と呼ばれる男・木村の存在を打ち明けたのです。

 

須藤は『自分だけが罪人になっているのは我慢が出来ない。のうのうと生きている木村をみちづれに

 

したいので記事にして欲しい』といいます。犯行現場の記憶も曖昧になっている須藤でしたが、取材を進めるう

 

ちに信憑性が増してきます。藤井は次第に取り憑かれたように取材に没頭して行きますが・・・。

 

シナリオは良くできており、終始緊張を強いられます。R15+です。凄惨なシーンもありますが演出の腕は確か

 

です。藤井は家庭に認知症の母親を抱えていますがその世話は妻に任せっ放しです。妻は疲れ果て夫をなじりま

 

す。こちらがサイドストーリーとして描かれていて作品に幅を持たせています。事件に没頭し髭も剃らずに

 

取材を続ける藤井ですが、その姿は鬱陶しくて取材対象者が警戒するのではないかと心配になります。

 

ピエール瀧とリリー・フランキーが犯罪者の陰と陽・直情径行型と冷静酷薄型を好対照に演じて見事です。

 

一方、取り憑かれたように取材を続ける藤井役の山田孝之ですがその眼はいまいち取り憑かれた者の眼にはなっ

 

ていないのが残念です。音楽もこの映画の完成度に一役買っています。

 

                               2013/09/21 サロンシネマ <紅孔雀>


 (C) 2013『そして父になる』製作委員会
(C) 2013『そして父になる』製作委員会

 

 

そしてになる

 

 6年間育てた息子は、他人の子どもだった―。出産直後に、病院で

 

取り違えられていたからだ。突然降りかかった事件に対して「実の子か、

 

育ての子か」。迫られる「選択」。家族とは、血のつながりを、深く考え

 

させられた。父を演じた福山雅治が素晴らしい。演技は抑え気味だが、父としての葛藤が、身に迫る。「家族」というテーマ

 

に、新しい息吹を吹き込んだ、との評価も頷ける。タイトルも近年になく素晴らしい。

 

ちなみにカンヌで上映された時のタイトルは「LIKE FATHERLIKE SON」だった。    (たまご焼き)

 


TM & (C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED. TM & (C) DC COMICS
TM & (C) 2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED. TM & (C) DC COMICS

 

マンオブスティール

 

 爆発寸前の惑星クリプトン、生まれたばかりのカルが、父親によって

 

地球に送られる。彼は地球人夫妻にクラーク・ケントとして育てられ、

 

お馴染のスーパーマンになる。その成長の物語だ。「自分は何者か、

 

何を為すべきか」というのは、誰もが持つ普遍的な悩みだと思って

 

見に行ったが、超人のそれに共感するには、私は凡人過ぎた。やたらあちこち壊すので、敵を倒す為とはいえ、地球の

 

建物を壊すことに葛藤は無いのか、なんて事ばかり気になった。3Dで見たら、これが、迫力満点ということになるのかもし

 

れないが・・・。     (みかん)

 


(C) 2013『貞子3D2』製作委員会
(C) 2013『貞子3D2』製作委員会

 

 

貞子3D

 

 新リングシリーズの2作目、今回の売りは、スマ4D、映画の専用アプリ

 

をダウンロードして…どうでもいいや。もともと、リングシリーズは親から子

 

への情愛と、迫り来る運命に人間が立ち向かう姿勢が読者を引きつけ

 

たんだが、シリーズが重なるごとに後者はなくなっていった。

 

本作もそう。貞子の子供?の周りで不審死が相次ぐって『オーメン』じゃん。でも、割りに良いんじゃないか。少くとも、前作の

 

『バイオハザード』もどきよりリングっぽい。今にして思えば、リング一作目は役者からして本気で作ってたんだろうな。

 

                                            (ウーロン茶) 


 (C) 2012「ペンギン夫婦の作りかた」製作委員会
(C) 2012「ペンギン夫婦の作りかた」製作委員会

 

ペンギン夫婦の作りかた

 

 「食べるラー油」誕生の実話を映画化。天真爛漫さと繊細さを巧みに

 

演じる女優、小池栄子が台湾の人気俳優、ワン・チュアンイーと

 

夫婦役で共演し、石垣島を舞台に「食べるラー油」開発までの奮闘

 

ぶりを見せる。国際結婚に疑惑の目を向けられつつも、数々のご馳走が

 

並ぶ食卓を囲んで、手作りラー油の味見に余念のない二人。湯気の

 

立つ料理の美味しそうなこと。映画に登場する料理は全て、モデルとなった辺銀食堂のご夫婦が作られたそうで、監督の

 

カット、OKが出た後も役者さんたちが箸を止めなかったとか。       (麦酒)

 


(C) Tibo & Anouchka
(C) Tibo & Anouchka

 

 

最後のマウェイ

 

2012年製作 フランス映画 上映時間 229 <予告篇>

 

STAFF

 監督・・・フローラン・エミリオ・シリ

 脚本・・・ジュリアン・ラプノー

 撮影・・・ジョヴァンニ・フィオーレ・コルテラッチ

 音楽・・・アレクサンドル・デスプラ

                       

                       CAST

                        クロード・フランソワ・・・ジェレミー・レニエ

                        ポール・ルデルマン・・・・ブノワ・マジメル

                        フランス・ギャル・・・・・ジョセフィーヌ・ジャビ

                        エメ・フランソワ・・・・・マルク・バルベ

 

フランスの国民的歌手クロード・フランソワの人生を描いています。有名になるにつれ女性関係も金遣いも派手

 

になり我がままで傲慢になっていきますがあの名曲「マイ・ウェイ」を残したその一点で私は全てを許します。

 

もっとも私の「許し」などは関係ありませんが・・・。

 

彼の性格が極端から極端に振れるようになったのは少年時代の家族関係にあります。彼の父親はスエズ運河の

 

運航に携わる責任者として働いていました。クロードもエジプト生まれです。ところが1956年スエズ運河が

 

エジプトに国有化され、一家は追われるようにフランスのコート・ダジュールに転居します。父親は追われた

 

ショックで働く意欲を無くしてしまいます。プライドも無くしてまるで廃人です。そのくせ家族にはあれこれと

 

指図します。もっともたちの悪い人間になり下がってしまうのです。クロードがオーディションを受けバンドの

 

ドラマーの仕事を得ても「大道芸人の仕事」と蔑み「銀行に勤めろ」などと言います。そのくせ自分は家の中に

 

籠ったきり働きません。殴ってやりたくなります。その父が亡くなると重しが取れたのか今度は母親がギャンブ

 

ルにのめり込みます。事もあろうにクロードのギャラまでも使いこんでしまいます。完全にビョーキです。

 

そんなことが重なりクロードは刹那に生きるようになってしまうのです。クロードは母はもとより死んだ父親に

 

も終始縋るように愛を求め続けます。その痛々しさが胸に沁みます。

 

自宅のプール脇でテープから流れてくるメロディをクロードが聞いています。未だ荒削りで単調なものです。

 

そのメロディに合わせてクロードが詩を付け編曲していくのです。「マイ・ウェイ」の誕生です。

 

鳥肌がたちます。この曲は後にポール・アンカが英語の歌詞を付けフランク・シナトラが歌って世界的に大ヒッ

 

トします。それを聞きながクロードは死んだ父親に「ほら僕のつくったマイ・ウェイをシナトラが歌っている

 

よ」とささやくのです。

 

1939年に生まれたクロード・フランソワは6,700万枚のレコードを売り上げ39年の短い生涯を閉じました。

 

一緒に暮らしていたフランス・ギャルの「夢見るシャンソン人形」をはじめ懐かしい曲が次々に出てきます。

 

劇中の歌唱シーン(歌はクロード本人の録音を使用)は迫力充分です。主演のジェレミー・レニエ(ある子供・

 

少年と自転/監督ダルデンヌ兄弟)は歌って踊っての大活躍です。彼のこの役に賭けた意気込みが伝わってきま

 

す。地味な上映形態ですが今年拾い物の一本です。さらにフィルムの質感が時代の陰影をとらえて素晴らしい

 

効果をあげています。
                      上映9/13までシネツイン新天地    2013/9/7<紅孔雀>