「西遊記~はじまりのはじまり~」 「NO ノー」



西記~はじまりはじまり~


2013年 中国 1h50 <予告編>


監督:チャウ・シンチー


出演:スー・チー/ウェン・ジャン/ホアン・ボー/ショオ・ルオ


田舎の我が家には、古い焦げ茶色の背表紙で全50巻の講談社『少年少女世界文学全集』がありま


す。収録作品のほとんどは、長めのダイジェストですが、それで本の面白さを知るきっかけにはなりまし


た。 J・ベルヌの「十五少年漂流記」や「海底2万里」は何度も繰り返し読み、後に「二年間の休暇」など


の完訳版を読みました。


中でも、「西遊記」の面白さは抜群でしたし、東映の長編マンガで「西遊記」(60)もあったり、手塚治


虫原作のテレビアニメ「悟空の大冒険」あり、心の奥底に沈殿しています。


中国文学が専攻で、北海道大学教授の中野美代子さんが、1980年に玉川大学出版部から出した


『孫悟空の誕生-サルの民話学と「西遊記」』を読んで、西遊記の奥深さを知りました。それから、彼女


の『孫悟空はサルかな?」日本文芸社とか、西遊記の不思議な宇宙を探索した本をあれこれと読み


漁っています。


『西遊記動物園』(実吉達郎著六興出版)という、「西遊記」に出てくる珍獣、奇獣のことを書いた本な


ども。超ベストセラーマンガの「ドラゴンボール」も西遊記抜きでは考えられないでしょう。


そういう私なので、香港のチャウ・シンチー監督の「西遊記~はじまりのはじまり~」も見に行かざるを


得ず、また、彼の映画「少林サッカー」(01)や「カンフーハッスル」(04)も好きなのです。彼をはじめとす


る香港映画の中の、ジャッキー・チェンとか、キョンシーとか、MRブーなどのような、ばかばかしさに乗


れない人には、向かないかも知れません。


彼が、どんな西遊記を撮るのかと、香港で大ヒットしたという興味もありました。冒頭からの沙悟浄退


治の破天荒なアクションや、猪八戒の魔窟のおどろおどろしさ、玄奘に片思いの妖怪退治の女カンフー


など、まあよくも考えることよ・・です。


意表をつくのは、500年閉じ込められている孫悟空の様子! キン斗雲こそ出てきませんでしたが、


如意棒も出てきて、本当は残虐な孫悟空の出る、大人向けの西遊記の世界でした。


最後に、日本のテレビドラマ「Gメン‘75」風になったのはお笑いでしたが、続編では、金角・銀角との


場面が見たいです。

(ストーン)



 

NO ノー

 

2012年製作 チリ・アメリカ・メキシコ 1h58 <予告編>

 

監督:パブロ・ラライン

 

出演:ガエル・ガルシア・ベルナル/ルイス・ニェッコ/アルフレド・カストロ            

 

「9・11」は、人類に転機をもたらす記号なのか?

 

1973年9月11日にアメリカのCIAが関与したとされる南米チリの軍事クーデターに


よってアジェンデ政権を倒し、ピノチェト軍事独裁政権が誕生した。チリで9・11といえ


ば、この日をさすそうだ。

 

軍が逮捕、投獄、虐殺した人々の数約3000名。実際はその10倍近い3万人ともいわれ


ている。そして弾圧から逃れるため海外に逃亡した人は、当時のチリの人口の1割にあたる


120万人。いかにピノチェトの弾圧が凄まじかったかがわかる。

 

映画「NO」は、1988年に行われたピノチェト政権の信任を得るための、国民投票が素


材となっている。信任は“YES”。不信任は“NO”。この国民投票は、残酷な人権侵害に


する国際社会の非難をかわすため、国民世論を得た形をつくるアリバイ工作だった。

 

映画の舞台となった3回目の国民投票が行われた年のチリ国内は、ピノチェト政権が世界に


先んじて推し進めた『新自由主義』政策によって経済が破たんし、失業者が増え、大きな経格


格差が生まれていた。映画はそんなチリ国内の鬱積した空気をすくい取る形で行われた国民投


票を促すための「YES・NO」両陣営のテレビCMづくりを描く。

 

「NO」の陣営のCMチーム、ガエル・ガルシア・ベルナル(「モーターサイクル・ダイア


リー」で若きチェ・ゲバラを好演)が扮する主人公の広告マンが「まず始めに言っておくが、


これは今の時代にマッチしたものだ。人々はこういう表現を待ち望んでいる。」と自信満々に


言い置いて、プレゼンテーションを始めるスタイルが興味深かった。

 

国民投票の結果は歴史的にも明快になっているが、チリの人々の強さ、明るさ、したたかさ


を感じて胸が熱くなった。             (せん寿)