2014/1月掲載

「小さいおうち」「アオギリにたくして」「もらとりあむタマ子」ー2「ルパン三世VS名探偵コナン」「大脱出」

「ハンナ・アーレント」「もうひとりの息子」


(C) 2014「小さいおうち」製作委員会
(C) 2014「小さいおうち」製作委員会

 

  

小さいおう

 

 

 あの山田洋次監督が「不倫」をテーマに、と聞いて好奇心いっぱい

 

だった。家族の絆を描き続けてきた監督が、家族の秘密をテーマにしたの

 

だから…。深く人間の心の奥底に入り込むには、隠された「裏側」も必然だったのかも知れない。

 

主たる舞台となる赤い屋根の小さいおうちは、当時花開いていた「昭和モダン」を顕著に表す。

 

前半部分は少々、退屈感も歪めなかったが、実は後半の「封印した秘密」を解きほぐすには、必要かつ不可欠な

 

展開だったのだろう。   (たまご焼き)

 


ミューズの里「アオギりにたくして製作委員会」
ミューズの里「アオギりにたくして製作委員会」

 

 

アオギリたくして

 

 

 原爆で片足を失った被爆者、沼田鈴子さんをモデルにした作品。

 

幸せな結婚を夢見ていた一人の女性が、広島に投下された一発の原子爆弾に

 

よって身体も、そして愛する人をも失ってしまう。絶望のあまり死を選ぼう

 

する彼女の眼に被爆したアオギリの隙間から出た小さな木の芽が。以来、アオギリに負けまいと懸命に生きる

 

沼田さん。10フィート映画『にんげんをかえせ』を通して、沼田さんを知り感銘を受けた歌手、中村里美さん

 

初製作。中村さんの歌う主題曲が胸を打つ。(麦酒)

 


(C) 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会
(C) 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

 

 

らとりあむタマ子 

 

 

東京の大学を卒業したものの、就職もせず、父親が一人で暮らしている

 

実家に戻り、食べて、寝て、漫画を読む日々を送るタマ子。テレビを

 

見ながら、自分のことは棚に上げ「ダメだな、日本は」というタマ子に、

 

「ダメなのはお前だろう」と言えても「出ていけ」とは言えない父親。そんな二人のモラトリアムな一年が

 

ユーモラスに描かれている。秋冬春夏と移り行く季節とともに猶予期間の終わりに向かうゆるやかな変化が、

 

心を和ませてくれる。前田敦子、好きになった。(みかん)

 


(C) 2013 モンキー・パンチ 青山剛昌 / 「ルパン三世 vs 名探偵コナン」製作委員会
(C) 2013 モンキー・パンチ 青山剛昌 / 「ルパン三世 vs 名探偵コナン」製作委員会

 

 

ルパン三世

 

   VS名探コナ

 

 

 これって実はすごいことなんだ。過去にも別々の作品の

 

キャラクターが共演したことはあった。でも、原作者が

 

同じだった。本作は原作者も出版社も別。同じなのは放送局とアニメ制作会社だけ。で、こういう場合、

 

両方に見せ場を作らないと。で、物語に2つの柱を作り、アイドル失踪をコナン、その裏で行われる地下資源

 

密輸をルパンが受け持つ。なかなかよく出来てる。心配されたルパン側の声優交代も問題なし。と、ここまで、

 

誉めておいてなんだが、これ、数年前に放送した、テレビスペシャルの続き。 なのに、一言もそのことに

 

触れてないのは反則だぞ。(ウーロン茶)

 


Motion Picture Artwork (C) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
Motion Picture Artwork (C) 2013 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 

 

 

 

2013年製作 アメリカ映画 上映時間156予告篇 

 

監督・・ミカエル・ハルストローム

 

出演・・シルベスタ・スタローン

 

    アーノルド・シュワルツェネッガー

 

    ジム・ガビーゼル

 

往年の面影は影を潜めたものの未だにハリウッド筋肉男の王道を行く二人の共演は迫力があります。

 

しかし、その筋肉男が小難しいことを考えるので違和感が増します。レイ・ブレスリンは世界でたった一人の

 

脱獄のプロです。それというのもわざと投獄され脱獄をして見せることでその刑務所のセキュリティの不備を

 

指摘し改善を指導することを仕事にしているからです。脱出に細かいテクを使うのですがどう見ても守衛を

 

ぶちのめして力ずくで強引に逃げる方がしっくりきます。ある日、CIAを通じてある私設刑務所の脱獄依頼が

 

届きます。それは「墓場」の異名を持つ脱出不可能な刑務所でした。ブレスリンはその仕事を引き受け入獄

 

します。そこには凶暴な囚人たちを束ねるボス、ロットマイヤーが待ち構えていました・・・。

 

 

入獄時に気絶させられ、気が付いたら檻の中だったために、どこにある刑務所で、どんな構造になっている

 

のかさっぱりわかりません。ただ縦に長い作りになっていることだけは判ります。果たしてここはどこなのか、

 

ブレスリンの行動と観客の興味が一体化します。ブレスリンが脱出ルートを探して刑務所の中を探ります。

 

その構造が判明し、なるほどと納得するのですが、実はこの映画のチラシや予告編を見ればその謎は一目瞭然な

 

のです。こんな宣材を作ってしまっては興味が半減してしまいます。ちなみに英語版の予告編では分からない様

 

にうまくつくっています。タイトルだってどんくささの極致です(原題 ESCAPE PLAN)。

 

ラストはいつものハリウッド映画ですから安心して家路につけます。     2014/1/11バルト11<紅孔雀>                                


(C) 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会
(C) 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会

 

もらとりタマ

 

2013年製作 日本映画 上映時間118 <予告篇

 

監督・・山下敦弘  

 

出演・・前田敦子 康すおん 伊東清矢

 

 

 

昔、「モラトリアム人間」という言い方を小此木敬吾の本で知りました。 

 

その本では、「モラトリアム」は、自分の生き方を決めるのを「もう少し考えてから・・」などとズルズルと

 

先延ばしにするもの、どちらかと言えば批判的なものでした。 

 

タマ子は、大学は出たけれど何をしたいか分からず、田舎の実家に戻ってグータラしている。 

 

離婚した父親との2人暮らし。 母親とも連絡を取り、結婚した姉もいるが、その姿は見えない。 

 

狭い台所兼茶の間のようなところで、2人だけの食事と何とも言えない会話。 

 

見ながら、年頃の娘と父親の様子に、10数年前の我が家の娘とのやり取りを思い出しました。 

 

へたり込んでいて、最短語でしか答えず、何かするときはジャンケン・・・など、まるでそっくり!! 

 

再婚相手かな?という、ちょっとかなわない大人の女性に会い、自問自答的に父親の話をすると、

 

父親の本心を言い当てられてしまう。 娘離れをしないと再婚できない父親の言葉と、それへの娘の答え・・・

 

間とセリフがいい。父親はタオルも娘のパンツもしっかり広げて干すのに、娘の干し方のへたくそさの対比の

 

可笑しさ。タマ子が読んでる漫画は、確か「天然コケッッコー」!! 山下監督の前の映画の原作で、

 

楽屋落ちのおもしろさも。エンドロールが終わっても席を立たないように!もう一つおまけがあります。 

 

ただ、だらだらしてちっとも乗れない、面白くないという人と両極端に分かれそうな映画でした。

 

                      2014/1/3 シネツイン本通り(1/24日まで上映) <石>


(C) 2012 Heimatfilm GmbH+Co KG, Amour Fou Luxembourg sarl,MACT Productions SA ,Metro Communicationsltd.
(C) 2012 Heimatfilm GmbH+Co KG, Amour Fou Luxembourg sarl,MACT Productions SA ,Metro Communicationsltd.

 

ハンナアーレント

 

2013/10日本公開  ドイツ/ルクセンブルグ/フランス合作

 

                 上映時間154 <予告篇

 

監督・・マルガレーテ・フォン・トロッタ

 

出演・・バルバラ・スコヴァ / ジャネット・マクティア

    

    アクセル・ミルベルク

 

ハンナ・アーレントは優しくて強いドイツ系の亡命ユダヤ人哲学者です。ナチスの戦犯アイヒマンの裁判を

 

傍聴した彼女は検察の主張が具体性を欠き、裁判をショー化していると喝破します。

 

そして「ザ・ニューヨーカー」誌に長篇レポートを発表します。その中で彼女はアイヒマンとは冷酷非情な

 

怪物ではなく、目の前にある上官の命令を黙々と遂行する凡庸な官吏のごとき存在にすぎないと書きます。

 

その思考することを停止したことが未曽有のホロコーストを引き起こしたのだと主張するのです。

 

裁判の場面は実際の映像が使われていてリアル感が高まります。 アーレントは、さらに一部ユダヤ人指導層が

 

ナチスに協力したと指摘。そのために「アイヒマンを擁護している」という誹謗中傷と脅迫の中に身を置く

 

ことになるのです。ハンナは決して アイヒマンに罪は無いと言っているのではありません。

 

思考を停止することの恐ろしさを説いているのです。しかし、ナチス=加害者(悪) ユダヤ=被害者(善)と

 

捉えている頑なな人々にとってハンナの発言は容認できないものでした。しかも彼らの多くがハンナの記事を

 

読むこともなく攻撃してくるのです。彼女の科学的な思考と、感情で攻撃してくる人たちとの「議論」は虚しく

 

すれ違います。ラスト近くハンナは自らが教授を務める大学で講義を行います。そのなかでハンナは繰り返し

 

「思考すること」の重要性を説くのです。この8分間は圧巻です。私たちの中に潜んでいる「アイヒマン的なる

 

もの」に鋭く問いかけてきます。監督は「ローザ・ルクセンブルグ」のマルガレーテ・フォン・トロッタです。

 

                     2014/1/2 サロンシネマ(1/17まで延長上映中) <紅孔雀>


© Rapsodie Production/ Cité Films/ France 3 Cinéma/ Madeleine Films/ SoLo Films
© Rapsodie Production/ Cité Films/ France 3 Cinéma/ Madeleine Films/ SoLo Films

 

もうひとり息子

 

 

2013/10月日本公開 フランス映画 上映時間145 

 

                                    予告篇

 

 

 

監督・・ロレーヌ・レヴィ

 

 

出演・・エマニュエル・ドゥボス / バスカル・エルベ / ジュール・シトリュク

 

イスラエルで暮らすフランス系ユダヤ人家族の長男ヨセフが兵役のために健康診断を受けます。

 

その結果、血液型から親子関係が否定されてしまうのです。湾岸戦争の時に戦火を逃れるために病院が別の場所に

 

移ったときに取り違えられたのです。DNA検査の結果相手が判明し、病院で親同士が面会します。

 

相手はパレスチナ人でした。息子の名前はヤシンです。兄と妹がいます。イスラエルとパレスチナ、占領した側と

 

された側であり、そのうえ原語、文化、経済格差、ヨセフはミュージシャン志望。ヤシンはフランスで医者を

 

目指す学生。何もかもが違いすぎるのです。しかし母親同士はこの難題を何とか前向きに解決しようと歩き始め

 

ます。頑迷だった父親も母親に背中を押され不器用に「敵」だった本当の息子たちとの距離を縮めていこうとする

 

のです。何よりも希望が持てるのは当人同士であるヨセフとヤシンがお互いを理解しようと努力を重ねるところで

 

す。それに引きずられるようにお互いの家族が行ききするようになって少しづつ溝が埋まり始めます。

 

ヨセフの父親は軍人です。その特権を使ってヤシンの家族の入国に便宜を図るのです。

 

硬直化したイスラエル/パレスチナ問題を若者の柔軟な知恵と工夫に託した監督の思いが伝わってきます。

 

                            2014/1/2 サロンシネマ(1/24まで)<紅孔雀>