「黄金のアデーレ 名画の帰還」 「顔のないヒトラーたち」


 

黄金のアデーレ 名画の帰還

 

2015年 アメリカ・イギリス 109分 <予告編>

 

監督:サイモン・カーティス

 

出演:ヘレン・ミレン/ライアン・レイノルズ/タチアナ・マズラニー

 

 

クリムトの世界的名画「黄金のアデーレ」をめぐって実際に起こった裁判と、名画に秘められ

 

た物語をアカデミー賞女優ヘレン・ミレン主演で描く。

 

 

ナチスがオーストリアに乗り込み、ユダヤ人から奪った名画を取り戻す…という映画です。他

 

にも戦争中に美術品の奪還をする舞台を描いた『ミケランジェロ・プロジェクト』も上映中です。

 

そういえば、昔、バート・ランカスター主演、J・フランケンハイマー監督の『大列車作戦』

 

は、パリからドイツへ運ばれる美術品を載せた列車を阻止するものでした。でも、この映画

 

は、オーストリアの美術館に展示され、同国の「モナリザ」と言われている絵画が、ナチによ

 

る略奪の中で奪われたもので、それを戦後何十年後に取り戻すという実話です。

 

主人公のマリアを演ずるヘレン・ミレンが、凛として素晴らしく、またユーモアに満ちた毒舌

 

が何とも魅力です。マリアが言う「戦争で何が起きたかを忘れない」というのが重要なモチー

 

フですが、もう一人の主人公の弁護士が出る興味深いシーンが幾つも。

 

私の職業柄、ロースクール時代の奨学金の借金がある弁護士が、大手ローファームへの就職活

 

動という中、名画の返還を求める訴訟に関わり、訴訟要件をめぐるアメリカの法廷場面、最高

 

裁での弁論の場面は面白い。最後の珍しい「調停」場面もそうですが、法廷場面がある映画は

 

面白く、余りハズレがないのでは…?

 

マリアが、ナチスの支配下となったオーストリアからの脱出というのは、名前も同じマリアが

 

山越えで脱出する『サウンド・オブ・ミュージック』を想起させます。ラストもいいです!!

 

『タイタニック』みたいではありますが。

 

年内一杯は、八丁座やシネツインで上映のようですので、見れば元気が出ること太鼓判です。                                  

 

                                    (ストーン)



 

ないヒトラーたち

 

 2014年ドイツ映画 上映時間203 <予告篇>

 

 監督:ジュリオ・リッチャレッリ

 

 出演:アレクサンダー・フェーリング / フリーデリーケ・ベヒト

    アンドレ・シマンスキ / ヨハネス・クリシュ

 

タイトルはイマイチですが、崇高な作品です。戦時中にナチスが犯した罪をドイツ人自らが裁

 

き、戦争責任に向き合う契機となったアウシュビッツ裁判開廷までの道のりを描いた人間ドラ

 

マです。

 

舞台は西ドイツ・フランクフルト。時代は第二次世界大戦敗戦から13年が過ぎた1958年。西

 

ドイツは経済復興が進んでいます。多くの国民は大なり小なりナチスドイツ時代の負い目を抱


えていて戦争は過去のものとして、当時の記憶にも自分たちが犯した罪にも蓋をして忘れ去ろ


うとしていました。そんな背景もあり若者たちの多くはアウシュビッツでの出来事はおろか


地名すら知りません。

 

ファーストシーン、画家のシモンが学校のそばを歩いています。煙草をくわえますがマッチが

 

りません。その時、校庭から一人の男性教師がライターを差し出します。その教師の手を見

 

シモンは思わず絵具箱を落としてしまいます。衝撃的なシーンです。

 

ジャーナリストのグルニカは元親衛隊員が規定を破り教職についていることを問題視し検察に

 

告発しますが、多くの検察官は自らの“ナチス”に向き合えず握りつぶそうとします。しかし

 

新米検察官のヨハンはグニルカや強制収容所の生き残りであるユダヤ人シモンとともに調査を  

 

開始するのです。

 

様々な妨害にあいながらも、検事総長バウアーの指揮のもと僅かな仲間とともに、生存者たち

 

の膨大な証言を積み重ね、市民の中に紛れ込んで生活しているアウシュビッツに関わったドイ

 

ツ兵8000人の罪を問うていくのです。この作品は彼らの気の遠くなるような努力の上に現在

 

のドイツがあることを描いています。エンドロールでアウシュビッツの事実を明らかにし、元

 

親衛隊員たちの罪を問うた人たちへの献辞が捧げられています。        <紅孔雀>