人魚の眠る家 恋のしずく


(C)2018「人魚の眠る家」 製作委員会
(C)2018「人魚の眠る家」 製作委員会

人魚眠る家

2018年 日本 2時間 <公式サイト

監督:堤幸彦

出演:篠原涼子/西島英俊/坂口健太郎/川栄李奈/山口紗弥加

 

 チラシには、登場人物それぞれの立場で、母の選択、父の選択、研究者の選択、恋人の選択、祖父の選択、祖母の選択とあり、「その選択は、奇跡を起こせるのか」「生か死か善か悪か愛か欲か」「答えてください。娘を殺したのは、私でしょうか」という問いかけがなされており、母の最終選択は殺しだったのかと思っていた。

 予告編では、眠ったままの女の子の手足が機械仕掛けのように動いたり、微笑んだりする表情に、妖しい雰囲気が感じられた。

 パンフレットでは、医学用語として、「人工神経接続技術」について解説され、技術の信憑性が担保されている。さらに監修者として東京都医学総合研究所の西村幸男氏によるインタビューがあり、「作品の根幹には、『命の境目はどこか』や『人が生きることに技術がどうかかわるべきか』といった倫理的な問題が絡んでいて」「この技術は、使い方を誤れば、脳、心、身体をコンピュータに制御されてしまう、ともすれば乗っ取られてしまう危うさもはらんでいる」「東野さんはそこに気づいて作品を書かれたのではないかと思います」と指摘されている。まさに科学技術と生命倫理のせめぎ合いの末に、優生思想につながる偏見を蹴散らし、倫理や愛情優位の結論に導いているところが凄い。障がい児の母親による子殺しへの減刑嘆願というような社会情勢は、一定過去のものになったようにも感じられる。

 父役の西島英俊が印象に残るシーンとして、母役のクライマックスを挙げるとともに、子役の二人の涙が止まらずに撮影を中断したと述べていた。その二人が眠り続ける女の子に感じていた気持ちの内容も複雑で、その子役たちも名演だった。

 

 発展途上国における子どもの臓器売買を告発した『闇の子供たち』が公開されたのは10年前のことだった。その後臓器移植法は改正され、発展途上国の犠牲は否定されることになった。代わりに「植物状態」とも呼ばれる遷延性意識障がいの人々の生が軽んじられることになるとすると、由々しき事態であろう。<鑑賞201811>

(竪壕)

しずく

2018年 日本 1時間57分 <予告編>

監督:瀬木直貴

出演:川栄李奈/小野塚勇人/宮地真緒/中村優一/蕨野友也

 

 監督舞台挨拶によると、西条を選んだ理由として、食べ物を題材にした作品をそれまでもつくり、中東でも共存平和に役立っていたこと、酒を題材にした作品としては『蔵』や『夏子の酒』くらいしかなく、日本三大酒処を比べて、街並みの感じが良く、また平和都市広島に近いことを挙げられていた。ロケ地として、東広島市内だけでなく、広島市、呉市、竹原市も随所にあり、場面が飛び飛びになっているので、地元の人としては納得いかないだろうが、リピートして確かめてほしいということであった。主人公の川栄李奈のアドリブが多く、今後の活躍が楽しみだとも話された。

 不本意で西条にやってくる主人公は、海縁のJR線路を通る列車を降りて、西条駅に降りる。海縁の線路は呉線ではないかと思われる。当然のように酒蔵通りが映され、田圃が広がり、西条でよくみる石州瓦の家が出てくる。高台から海を眺める景色は、アニメ『この世界の片隅で』や『孤狼の血』によく出てきた呉の後背地であろう。西条酒まつりに美酒鍋も出てくる。また、平和公園や川に架かる橋が色々出てきて、亀山神社(呉市)に行き着いてしまう。これも実際は大変な距離である。行ったことはないが、広島の街並みを見下ろす廊下は、おりづるタワーの展望室であろう。最後の別れの駅も、呉線で、海沿いに西へと進んでいく。

 恋ばなしは、脇役の宮地真緒が引き受けた感があり、主人公の川栄李奈は、いたって真面目に日本酒造りの修業に邁進し、成長していく。小市慢太郎は、大抵曲者だったりお道化役だったりというものしか観たことがなかったが、ここでは頑固者を演じている。西条を中心にした広島のいい面を世に広める作品がまた一つ増えたと言って良いであろう。<鑑賞201810>

 

(竪壕)