『 ワンダー 君は太陽 』『四万十 いのちの仕舞い』


ワンダー 君は太陽

2018年 アメリカ 1時間53分 <公式サイト 

監督:スティーブン・チョボウスキー

出演:ジュリア・ロバーツ/ジェイコブ・トレンブレイ/オーウェン・ウィルソン/マンディ・パティンキン

初めに、主人公がヘルメットを被って「宇宙」からの交信をする場面だったので、『シンプル・シモン』のように、引きこもりの場面が多いのかと思った。けれども、ヘルメットを外して、友だちの前に踏み出して行こうという姿勢を強く打ち出していた。

初めて子どもたちの好奇の目にさらされる場面は、『エレファント・マン』や『ノートルダムの鐘』のそれを思い出した。けれども、前者のように恐怖心を煽るものではなく、節度ある姿勢で、後者に近いものだった。しかし、それは上辺だけのもので、いじめに転じていく者もいた。その一方で、主人公の機転もあって、主人公に好意を抱くようになった少年も登場する。ところが彼は、いじめっ子にも取り入ろうとする余り、気づかないまま主人公を傷つけてしまう。彼は、そのことに気づいて大きく後悔し、理由を秘していじめっ子と取っ組み合うことになる。 その葛藤する姿は、『エレファント・マン』の外科医が偽善者ではないかと自問する姿にも通じるものではないかと思われた。監督自身が影響を受けた映画の一つというくらいのことはある。特殊メイクだけではない。

障がいのある子のきょうだいの寂しさ、不平感については、『ケニー』その他で描かれてきたが、これほど丁寧に描かれたのは、他に類をみない。

いじめっ子の親が、校長にまで理不尽な言い分を通そうとするが、まるで『ノートルダムの鐘』のフロローであり、お前が出て行け! と言ってやりたいところだった。校長は、理路整然とその子が悪い理由を述べていた。その言葉の一つは、パンフレットの父親役の俳優が感動した言葉として採録され、ノーマライゼーション思想の根幹に関わっている。日本でいじめ問題に取り組む学校教職員にも、毅然として被害者を擁護する姿勢をもってもらいたいものである。アメリカの学級定数が少ないのも 羨ましいところで、教師とのきめ細やかな遣り取りの場面もよく描かれている。日本の子どもたちは、次の標的になることを恐れて、いじめっ子の指示に逆らえない場合が多いのではないだろうか。

最後の表彰式は、『陽のあたる教室』の結末の場面にも似た雰囲気だった。主人公ではなく、親友が受賞してもおかしくないくらいの成長をみせた物語であったようにも思われた。〈鑑賞20186月〉

 (竪壕) 


四万十 いのちの仕舞い

2018年 日本 1時間48 <公式サイト 

監督:溝渕 雅幸

出演:小笠原 望

高知県四万十市で地域在宅医療に携わる小笠原医師の視点から、往診先の患者さんの様々な姿や、四季折々の四万十川の恵みや風情を、イラストを添えた川柳とともに描いている。

ある患者さんの家族は、小笠原医師のことを哲学的、倫理的な医者だと評していた。

監督挨拶では、ちょうど被害の大きかった水害についての見舞い話から始まった。前作のホスピスを取り上げた『いのちがいちばん輝く日』とともに、とてもいい医師との出会いに恵まれ、取材を続けていくうちに、いい看取りに何度も立ち会うことができた、という話をされた。

映像に出てきた患者さんの病状としては、ALSと脳梗塞の人たちを除いては、概ね老衰状態とみられた。終末期の病人を無意味な医療で縛りつけず、本人の自由を認めた最期を迎えさせようという発想を映画で知らしめたのは、『大病人』ではなかったかと思い到った。

また、この作品の副題についた「仕舞い」には、自殺幇助選択の提起を込めた『母の身終い』とは正反対の躍動的な語感を受けた。〈鑑賞20187月〉

 

(竪壕)