■■■2020年■■


風の電話 Fukushima 50 さよならテレビ 2人のローマ教皇 母との約束、250通の手紙 名もなき生涯

ルース・エドガー 8:15 


8:15
(C) 2020 by 8:15 Documentary, LLC

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2020年 アメリカ 50

https://www.815documentary.com/

監督:J.R.ヘッフェルフィンガー

出演:田中壯太郞/ジョナサン・タニガキ/エディ・大野・トール

冒頭、学校の授業で、「終末時計」の危機的事件を報道するラジオ放送が流れる場面は、『ひろしま』を彷彿とさせた。一人の被爆者の再現ドラマと、高齢で健在な姿を現される姿の組み合わせは、かつての10フィート運動作品での山口仙二氏に似ている。舞台挨拶をされたのは、映画に描かれた当事者の娘の美甘章子氏で、アメリカ人スタッフが制作することにより、学生時代に原爆投下の正当性を教え込まれ、投下された地表には、生存者皆無と思い込んでいたのが、生存者が苦しんでいることを知り、核兵器廃絶に理解を示すようになった学習効果を報告されていた。日本での優れた作品の英語版の普及もさることながら、外国人の手での制作による意義を見出すことができる。

<鑑賞20207月>  (竪壕・たてほり)


ルースエドガー

アメリカ 2019年 1時間50

http://luce-edgar.com/

監督:ジュリアス・オナー
出演:ナオミ・ワッツ/オクタビア・スペンサー/ケルビン・ハリソン・Jr.

 宣伝文句にあるような「優等生か怪物か」かが問われているわけではない。目の前の子どもの言い分を信じるかどうかということである。この作品と入れ替わりに終映した、フランスの黒人街の矛盾の現状を描いた『レ・ミゼラブル』の結末に、「友よ、よく覚えておけ、悪い草も悪い人間もない。育てる者が悪いだけだ」という言葉が提示されている。ルースも捻くれてしまって当然だろう。

 『レ・ミゼラブル』のステファン警官は、イッサ少年に対して、治安を優先して、優位に立つだろうが、『ルース・エドガー』のウィルソン先生は、親からも校長からも、信用を失ってしまった。別の映画館で上映中の邦画『許された子どもたち』の加害者母子は、妄信のまま、一般世間に背を向けた開き直りの「再生」の道を歩み始め、端からみると絶望的である。ルースは無難な着地点に降りたが、孤独であるようにみえる。

 大人は、子どもを正しく導くためには、どうすれば良かったのかを、深く考えるべきであるという提起において、三つの作品は、私のなかで、互いに絡み合いながら胸に刻み込まれていく。

 あるいは、アフリカ等の発展途上国からの難民を先進国において受入れることにおいて、『グッド・ライ』『ルワンダの涙』他のように、様々に難民として脱出してきた青年たちも、同じように、異国で型にはめられた窮屈さを感じているのかもしれないと思った。

<鑑賞20206月>(竪壕)


名もなき生涯

アメリカ・ドイツ合作  2019年 2時間55

http://www.foxmovies-jp.com/namonaki-shogai/

監督:テレンス・マリック

出演:アウグスト・ディール/バレリー・パフナー/マリア・シモン/トビアス・モレッティ

 オーストリア人でヒトラーへの忠誠を拒んで国外逃亡した話は、『サウンド・オブ・ミュージック』にみられた。長女の恋人はヒトラーに傾倒していたが、逃亡決行の際は見逃した。『名もなき生涯』の裁判官の苦悩にも、反ナチスに共感するところがあったのだろうが、責任上ヒトラーに反する裁定はできなかったのだろう。

 『ジョジョ・ラビット』では、ドイツ人の少年が、初めのヒトラー崇拝の姿勢を、最後には振り捨てる大転換をやった。その過程で、母親が隠れて反ナチスの宣伝活動を行った末に私刑で殺され、匿われていたユダヤ人の少女は、少年には強気に出ながらも、ナチス軍人には敬礼を拒まず妥協して、ナチス敗戦まで生き長らえた。信念を枉げて命を保つ方便を取るのは、戯曲『ガリレイの生涯』にもみられる。

 良心的兵役拒否を申し出、衛生兵として戦場で献身的に仕事を果たしたアメリカ人の姿を描いたのは『ハクソー・リッジ』であった。けれども、『名もなき生涯』の主人公は、権力者に忠誠を誓うこと自体を潔しとしなかったので、そのような方便も嫌だったろう。

 『シャトーブリアンからの手紙』では、フランスの政治犯たちが銃殺される際に、一人が「インターナショナル」を歌って散る、という場面があり、それに近い誇り高い最期である。日本のキリシタン弾圧を題材とした『沈黙-サイレンス-』以上に硬派であるというネット評もある。

  非戦・厭戦の志をもつ人を「非国民」呼ばわりし、共同体による爪弾きや同調圧力が作用するのは、日本だけではないようである。

<鑑賞20204月>(竪壕)


母との約束、250通の手紙

 

フランス・ベルギー合作  2017年 2時間11

https://250letters.jp/

監督:エリック・バルビエ

 

出演:ピエール・ニネ/シャルロット・ゲンズブール/ディディエ・ブルトン/ジャン=ピエール・ダルッサン

 

  ポーランド生まれのユダヤ人の母親が息子に注ぐ溺愛と誇りの教えに、息子は時には反発しながらも、期待に応えようと育っていく。母子それぞれ差別を受けていながら、卑屈にならない姿勢は潔い。そしてフランスは、ショパンやキュリー夫人に限らず、憧れの国だったのだろう。

 ナチスドイツと休戦後に軍隊を脱走した兵士がイギリスに渡り、「自由フランス軍」に加わって、連合国軍の反撃に功績を挙げるという話は、これまでにあまり見聞きしなかったので、そこは意義あるところだったと思う。

 題名にある「250通の手紙」の種明かしは、『はなちゃんのみそ汁』とも共通する逸話であるが、そこにも母親の強い愛情が感じられた。

 カタツムリを生で土がついたまま食べるのは、気持ち悪そう。

 

<鑑賞20203月>(竪壕)


2人のローマ教皇

イギリス・イタリア・アルゼンチン・アメリカ合作 2019年 2時間5

https://www.netflix.com/jp/title/80174451

監督:フェルナンド・メイレレス

出演:アンソニー・ホプキンス/ジョナサン・プライス/フアン・ミヌヒン/ルイス・ニェッコ

 

2013年の歴史的なローマ教皇交代劇の舞台裏を描く。美しい自然やシスティーナ礼拝堂(セットだが実物と見紛う美しさ!)を背景に繰り広げられる芸達者な俳優の演技にくぎ付けになる。考え方の違う二人が会話を重ね、お互いの過去の過ちを告解し、赦しあい、やがて友情のようなものが芽生えていく様は見事で示唆に富む。笑いながら、考えさせられ、希望を与えられる。知的で品のある大人の映画。コンクラーヴェの臨場感に圧倒された。

< 鑑賞 20203月>(柊子)


さよならテレビ

日本 2019年 1時間49分 <http://sayonara-tv.jp/

監督:圡方宏史

出演:福島智之/渡辺正之/澤村慎太郎

 

 若者の新聞離れが言われて久しいが、テレビ離れも直実に広がっている。一人暮らしの若者の必需品はテレビからパソコンに変わり、今はスマホである。テレビを観る若者は減り、お年寄りをターゲットにした健康番組がやたらと目立つ。タイトルの『さよなら…』であるが、若者はもうとっくにバイバイしているのだ。確かに、これまで聖域とされていた自局内にカメラを据えたことは、賞賛すべきかもしれない。でも、それを賞賛と捉えることが、世相から遅れているのかもしれない。エンディングの「どんでん返し」には驚かされたが、そのことももう驚かされない「時代」かもしれない。

<鑑賞20202月>(礼)


Fukushima 50

日本 2020年 2時間2分 <https://www.fukushima50.jp/

監督:若松節朗

出演:佐藤浩市/渡辺謙/吉岡秀隆/安田成美

 

 東日本震災発生時における福島原発事故に対応した官邸や本店の面子による命令が、現場の反発を受けたという話は、新聞報道からも知られていたが、渡辺謙や佐藤浩市の熱演から、気持ちが凄くよく伝わってきた。さらには、二人の間にも微妙な行き違いのあったことまで描かれている。

 『無念』は、救助に向かった消防団員たちが、避難指示のために使命を断念しなければならなかった心情を描いていたが、こちらは官邸や本店からの命令と、現場作業員の命の保障との間の葛藤が非常に切実だったことも伝わってくる。「決死隊」という言葉でしか、誠意を表現できなかった悔しさもあっただろう。

 現場作業員たちの家族の心配も、代表的によく描かれていた。無事生還してきたときの安堵感は、戦争から戻ってきた戦士を迎えるような感動を覚えたし、避難していた地域住民たちに対して詫びる主人公に対し、泉谷しげる演じる住民が温かい労いの言葉で応える場面にほっとするものがあった。最後の満開の桜並木の映像は、『一陽来復』にも重なるところがあった。

 他地域に避難している福島出身者に対して冷ややかな目でみる各地の人々に、この作品をきちんと観てもらって認識を変えてもらいたいものである。官邸や本店の責任の取り方についても、また、よく考えてもらいたいものである。富岡では、この14日に常磐線の不通区間の運行が再開されるので、また喜ばしいことである。

<鑑賞20203月>(竪堀)


電話

日本 2020年 2時間19分 <http://kazenodenwa.com/

監督:諏訪敦彦

出演:モトーラ世里奈/西島秀俊/西田敏行/三浦友和

 

東日本大震災直後に同じく大槌町を舞台として制作されたドキュメンタリー作品『槌音』では、その音が響くことが復興の進展の象徴のように語られ、その後、『ひょっこりひょうたん島』のモデルのあるその町を2度訪れ、進捗情況を確かめて回ってきた。しかし、この逸話は初めて知った。『遺体』や『救いたい』で、東日本大震災関連映画作品にすでに出演している西田敏行や三浦友和に加え、この作品では、西島秀俊が主人公の支え役として活躍しているが、主人公自身が叔母の支えを失って不安定になったという設定で、心許ないところもある。西日本豪雨で被災した呉市安浦町、福島原発の復旧作業に従事したクルド人へのその後の処遇と残された家族の故国への思い、帰還困難地域の状態、そして大槌町の現状が映し出される。次に出向く機会には、その電話ボックスを訪れてみたい。  <鑑賞20201>(竪壕)