それだけが、僕の世界 / 願いと揺らぎ / バイス / 轢き逃げ / 主戦場 / ある町の高い煙突 / 記憶にございません! / i-新聞記者ドキュメント- / 高津川


日本 2019年 1時間53分 <https://takatsugawa-movie.jp/

監督:錦織良成

出演:甲本雅裕/戸田菜穂/大野いと/田口浩正

 

 NHK地域発ドラマの『舞え! KAGURA 姫』が、中国地方の伝統文化神楽に勤しむ高校生たちを描いていたが、この作品にも同じような展開がある。関連して、面や衣裳、和菓子や鮨の技巧にも見事に光が当てられている。そして、牧畜も含めた家業の跡継ぎ、小学校の閉校、リゾート開発に抗する環境保全を問題にしつつ、「日本一の清流」と銘打たれた高津川が、緩やかにきらきら光りながら流れ、様々な地域の人々の情感をみつめている感じを受けた。とりわけ高橋長英と田口浩正演じる父子の名演が印象深かった。

 果たして、リゾート開発を阻止できるのかどうかには、具体的な動きをみせていないが、まずは、本気で取り組もうとする姿勢ができたことが第一歩なのだろう。

 「高津川」なる当地銘菓が現存するのかどうかはわからないが、これを機に生産が始まるのかもしれないし、また新たなロケ地巡りの目標としたい。  <鑑賞201912>

(竪壕)


i新聞記者ドキュメント-

日本 2019年 1時間53分 <オフィシャルサイト https://i-shimbunkisha.jp/

監督:森達也

出演:望月衣塑子

 「『新聞記者』は序章にすぎなかった」という触れ込みであるが、その程度だと思っていた。本作は、同じプロデューサーが森達也監督を起用し、東京新聞の望月衣塑子記者を被写体として追いかけたドキュメンタリー作品であり、被写体の精力的な姿を映し出せば、前作を上回る現実感を提示できることは容易に予想できた。作品中では、望月記者が取材した沖縄辺野古や「標的の島」の一つでもある宮古島の住民の声、暴いた政府報道の誤魔化し、森友学園問題に関わった籠池夫妻や加計学園問題に関わった前川氏の心情、官邸会見における望月記者への菅官房長官による答弁ぶりや、上村報道官による妨害発言、森監督や外国人記者、フリーランス記者に対して閉鎖的な記者クラブ会見制度の問題点が目に留まった。それがまさに、"i"=個人の視点を大事にしようとする主張につながっている。『新聞記者』でシム・ウンギョンが演じた記者が上司と遣り取りした場面で描かれたような、社内における少しの軋轢と共通する場面があった。アニメーションで、望月記者と菅官房長官、森監督と警察官が闘牛の姿となり、乱闘を始める場面がエンターテイメント的であり、こうした描き方も採り入れて、現実に起こった重大事件の真実に迫るドラマ版へと発展していくことが期待される。

<2019年11月 竪壕>


記憶ございません

日本 2019年 2時間7分 <https://kiokunashi-movie.jp/

監督:三谷幸喜

出演:中井貴一/ディーン・フジオカ/石田ゆり子/草刈正雄

 

 現首相わせる人物態度をパロディー的っていをったり、端々庶民政治への不満噴出させるとともに、忖度政治対米追従外交への批判的見解、そして取材記者にも、金権らない姿勢かれているようにめられた。小池栄子演じる良識的女性秘書官えが、ディフジオカじる策士的男性秘書官み、首相理想的政治姿勢への転換いていく。首相夫人重要側近のスキャンダル報道するこの作品での対応は、様々批判けている現実首相夫人重要側近現首相徹底的けているという現実なるようにもわれた。『天気』の結末について、当該監督が、多数者からの批判覚悟でつくったとべている観点とも関連するが、庶民最高権力者とでは、責任なるべきではないのかという不満る。政治家個人初心るという心構えの政治浄化するような発想ではなく、民主主義政治改善していくという視点作品たれる。ただ、三谷監督自身は、この作品について、パロディでも、風刺でも、政治的主義主張づいたものでもなく、あくまでもコメディ映画であるという立場っているので、政治かす作品をつくってもらうことを期待しないがいいのだろう。配役で、有働由美子、ロ山口崇登場かれた。  

 


ある町の高い煙突

日本 2019年 2時間10分 <https://eiga.com/movie/90574/
監督:松村克弥
出演:井手麻渡/渡辺大/小島梨里杏/吉川晃司/仲代達矢

 日立銅山の煙害に悩む村を舞台として、問題解決のために尽力する地主の家系にある青年が主人公となっている。問題解決は、村の青年たちの力だけでできたわけではない。当時交渉相手であった銅山会社の庶務課長や社主の煙害を減らそうという意欲に助けられたものであった。それらの銅山会社の責任者たちも、立ち退き補償金だけで解決しようとしたのではなかった。当時の科学水準では精一杯の対策としての高い煙突建設も含めて、解決のための努力を惜しまない姿勢の結果、実現されていったのであった。

 被害者の声を聴き取り、同じ理想を実現しようとする責任者たちの姿勢は、実話でもあり、素晴らしいものである。その姿勢は、現代における様々な公害発生企業の経営者や紛争責任当局に共通して求めたいものである。同時にそれを「空想」に留めないような、現実的な対峙運動が肝要であろう。

 主人公の青年と庶務課長の妹とが、「ロミオとジュリエット」と言いながら、心を通わせ合うのは微笑ましいけれど、実らないのが残念である。  <鑑賞20196> 

 

(竪壕)


アメリカ 2018年 2時間2分 <http://www.shusenjo.jp/

監督:ミキ・デザキ

出演:トニー・マラーノ/藤木俊一/山本優美子/杉田水脈/藤岡信勝

 慰安婦問題に関して、否定的な保守派の論客の映像と、支援する立場の関係者や学者の映像が組み合わされて構成されている。結論として、監督自身の見解が示されているので、立場は明確であるが、取材を受けて自説を否定された形の否定的な保守派の論客の立場からすると、騙された、という不満をもつのは無理はないと感じられた。

 11年前に公開された映画『靖国 YASUKUNI』も、同様に、保守主義の本体を取材しながら、保守派から非難を受け、補助金支出の是非論や上映中止騒動にまで発展した事件があり、映画の構成、反応とも共通しているように思われた。

  『主戦場』もまた、取材を受けた保守派の論客たちから、告訴を受け、上映中止を求められる事態となった。『靖国 YASUKUNI』の顛末としては、賠償金を支払って和解したという情報があるので、少し心配である。
 昨年は、映画『国家主義の誘惑』という作品も公開された。その作品では、安倍政権の動向に対して、批判的な見解をもつ国内外の論客と、自民党議員の主張をも取り込んで構成されていた。そのときは、反響はほとんどなかったように思う。ただ、その作品を制作した監督は、日本人ながらフランス在住で、日本在住監督よりも条件として有利であるのは、今回のデザキ監督と同様であったのかもしれないとも思われた。
 デザキ監督自身は、広島で留学生活を送り、大きな影響を受けたということでもあるので、アメリカ国内で議論が分かれる原爆投下問題についても、同様の手法で作品を制作して、問題提起をしてもらいたいものだと思った。 <鑑賞20196> 

(竪壕)


逃げ

日本 2019年 日本 2時間7分 <公式サイト

監督:水谷豊

出演:中山麻聖/石田法嗣/小林涼子/毎熊克哉/水谷豊

 

 このところ、高齢者や主婦という、単純に非難できない加害者による自動車事故のニュースが続いている。この作品は、そうした事故当事者の心情を推し量るための素材の一つを提示したとも言えるのではなかろうか。

 水谷豊監督作品ということで、冒頭にその人の姿を求めたが、なかなか出て来ず、劇場を間違えたかと思っていた。そのうちに、若い男性の慌ただしく運転する自動車が、人気のない路上で若い女性を撥ね、同乗者と示し合わせてまさに轢き逃げを図り、標題として出たので、一応間違いないことがわかった。

 加害者の若い男性の一人は、榎木孝明に似た風貌で、その男性が結婚式直前で、同乗していた親友とともに事件を秘匿したまま結婚式を済ませてしまう。しかし、直後に事件が発覚し、取り調べを受け、逮捕されることになる。

 そうしたときに、監督でもある水谷豊の出番となり、岸部一徳、檀ふみとともに重要な役割を果たしていき、『相棒』ばりの活躍さえみせていく。早々と加害者が逮捕され、事件が解決されたかにみえた、その先に、事件の真の原因が明らかになっていく。そこは、若い刑事が呟く台詞に同感する。それにしても、加害者、被害者遺族それぞれの心情が、とても丁寧に描かれていて、良かった。<鑑賞20195>

(竪壕)


バイス

2018年 アメリカ 2時間12分 <公式サイト

監督:アダム・マッケイ

出演:クリスチャン・ベール/エイミー・アダムス/スティーブ・カレル/サム・ロックウェル/タイラー・ペリー

 

 予告編から、コメディ作品と思われたが、観てみると、ブラック・リアルな性格が強かった。チェイニー副大統領の名を目にした記憶はわずかしかなかったが、こんなにも酷い影響を与えていたことが、この作品でよくわかった。マイケル・ムーアの『華氏911』が皮相な面しか捉えておらず、『華氏119』が的外れのように思えてくる。チェイニー自身が若い頃からそのような切れ者というわけでもなく、刺戟となる人物が周囲にいたこともわかった。娘への配慮から、妻以上に家族愛の深い人柄が窺える。

 ちょうど中ほどで一旦エンドロールがかかり、そこからが第2幕という位置づけとなる。

 二つ目のエンドロールでは、擬似餌の毛針が並べられ、魚を騙すように、国民をも騙し続けた政治姿勢であったことが窺える。日本の現政権にも騙されないように気をつけなければいけない。

 三つ目のエンドロールとの間にまた、芝居が挟まれている。世論への「バランス」操作にも気をつける必要があると感じられた。この作品に限らず、エンドロールは、最後まで観逃さないようにしたいものである。<20194月鑑賞>

(竪壕)


願い揺らぎ

2017年 日本 2時間27分 <公式サイト
監督:我妻和樹

出演:南三陸町戸倉地区波伝谷のみなさん

 東北の被災地で、伝統的な獅子舞を復興する際に、一人の若者が、集落内での自分たちの努力で実現することを望んでいた。しかし、周囲や監督が集落外の支援も活かそうとした動きがあり、気持ちの擦れ違いが生じ、混迷した模様となってしまった。そのような混迷した情況が描かれている。同じ県内でも、私が訪問したことのある亘理町では、遠く九州から獅子頭だけが送られてきて獅子舞を復興させていた。そこではなぜそんなにこじれたのだろうかと訝しく思った。でも結末は、周囲から一人外れてしまった若者も、復興ができて良かったという話をしていた。亘理町でも、そのように屈折した心情が、表に出ないだけで、内部には潜んでいたかもしれないと思った。

 全体的にモノクロの映像で、過去の渾沌とした感じを引き摺っているように思われた。途中、震災前に生きていた子どもや獅子舞の映像がカラーで現れ、最後の方で、近年の映像もカラーになり、コントラストを呈していた。パンフレットに掲載された評論の一つにも、その鮮明さが指摘され、監督挨拶直後の個別の質問でも確認できた。被災前から現地で映画制作に取り組んでいた監督であったからこそできた、総括的映像であろう。

 ナレーションはなく、前半では字幕での説明が続き、終わり頃、監督がインタビューによって、出演者に語らせる手法を採っている。
 監督挨拶では、取材現地の被災者の方々に映像を観てもらったうえで、他地域への上映に踏み出していったという経緯を語られた。被災者の方々への心情に寄り添い続けようとする配慮に富んだ制作姿勢を感じた。

 この取材現地にも、ぜひ足を運んでみたいものである。<鑑賞20191>
(竪壕)


それだけが僕の世界

2018年 韓国 2時間 <公式サイト

監督:チェ・ソンヒョン

出演:イ・ビョンホン/パク・ジョンミン/ユン・ヨジョン

 

 韓国版『レインマン』と評されるのも納得できる。この作品では、イ・ビョンホン演じる長く離れて生活していた障がいのない兄が、母親と障がいのある弟と暮らし始め、母親には憎しみを抱き、弟の障がいには面倒を感じながらも、関わりを深めるにつれて、サヴァン症候群という弟の才能を見出していく。

 兄弟とそれぞれ縁のあったハン・ジミン演じる女性障がい者が、重要な役割を果たすことになる。コンクールでは、予想と違う評価を得ることになったが、回り回って、晴れ舞台に出て、兄が母親とともに見守ることになる。

 

 弟役のパク・ジョンミンが、3か月間の猛特訓で見事なピアノ演奏の場面を吹き替えなして演じているのが凄い。