シアター・プノンペン
2014年 カンボジア映画 1時間45分 <予告編>
監督:ソト・クォーリーカー
出演:マー・リネット/ディ・サーベット/トゥン・ソービー/ソク・ソトゥン
素晴らしく美しい映画である。東南アジア映画は、僕には苦手分野だったが『シアター・プノ
ンペン』は、全く身構えること無く観られた。
ストーリーは、1970年代初頭クメール・ルージュ(カンボジア共産党)に依る弾圧の前年
に、一度だけ上映された『長い家路』なる映画を軸に、主演女優ソテアの娘ソポンと脚本を手
掛けた映画館の主人が運命の如く出会い、失われた映画の最終章を大学の映像学科の教授達の
協力を得て最新の技術で甦えらせる感動的な半ドキュメンタリーだ。
105分間の中に、主人公ソポン、軍人の父、心を病む母、映画館主人ソカ4人の、心の葛藤
が、『長い家路』の物語そのままに投影されている。撮影に使用された映画館もまた然り。実
際に、当時は国立の劇場であった無人の館内で、銀幕に映し出されるソテアの端々しさ、蓮の
花咲く池で、振り返る姿の美しさには、数多くの人が魅了されたことだろう。
美しいものに心を寄せてゆく穏やかなるひととき、それが「平和」であろう。こんなにも清ら
かで誰しもが優しい気持ちになれる映画が存在していたのは、まさに奇跡だ。
そして、暗い時代を知る生き証人ソク・ソトゥン演じる映画館の主人ソカ(実は弟のべチア)
が、映写室でソポンに昔を語る場面での台詞、「人々が攻撃の恐怖を忘れるために俺はフィル
ムを廻し続けた」これは、映画を愛する者なら誰もが涙する珠玉の言葉だ。僕も、目頭が熱く
なった。
映画の登場人物が動きだすと、身を伏せていた観客が、瞳を輝かせて正面を向く姿が彼の回想
シーンに浮かび、僕はこの映画の奥深さに畏怖に近い「何か」を受け取った。
ラストで、べチアは贖罪の為出家するが、彼の映画への愛は、二つの名作『長い家路』『シア
ター・プノンペン』を誕生させ、多くの者に希望をもたらした。
(パンドラ&フライングダッチマン)
この世界の片隅に
2016年 日本映画 2時間6分 <予告編>
監督・脚本:片渕須直 原作:こうの史代
声の出演:のん/細谷佳正
呉市美術館で開催されていた原画展を7月末に観覧し、登場人物の情愛や、戦時情勢の有様が細
やかに描かれ、戦中戦後の混乱した時代を健気に生き抜く女性という、朝ドラの主人公とだい
たい同じような人物像だと感じられましたので、映画公開を心待ちにしていました。
原画で印象的だった場面は、おおよそ忠実に再現されていましたが、場面場面で断片的に感じ
られ、前後関係がわかりにくかったものが、滑らかな一連の物語としてうまくつなげてあった
うえ、爆撃の音響効果が一段と迫力を生み出していました。時々伸びやかで、ほっと笑える場
面も随所に織り込まれ、息抜きもできましたが、原画展でも注意書きで区画されていた場面が
迫ってくると、だんだん緊張感が高まっていきました。その場面は本編でも、暗中渾沌の映像
として描かれていました。
結末について、原画展では不明確な提示しかなかったように感じましたが、これも朝ドラであ
りがちな、未来に希望を抱かせるような終わり方で安心しました。
エンドクレジットでは、クラウドファウンディングの協力者名がたくさん出てきて、それだけ
多くの人々の支持を得て制作された作品であることがわかります。私も募集を知っていたら、
一口加わりたかったものだと残念に思いました。 (竪壕)
すずは、広島市江波で生まれた絵が得意な少女。昭和19年、20キロ離れた町・呉に嫁ぎ
18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏していく中で、日々の食卓を作り出
すために工夫を凝らす。
だが、戦争は進み、日本海軍の根拠地だった呉は、何度もの空襲に襲われる。庭先から毎日眺
めていた軍艦たちが炎を上げ、市街が灰燼に帰してゆく。すずが大事に思っていた身近なもの
が奪われてゆく。それでもなお、毎日を築くすずの営みは終わらない。
そして、昭和20(1945)年の夏がやってきた―。
※
深い味わいを残すアニメーション映画です。戦時中の広島市の江波、旧中島町、そして主人公
すずが嫁いでいった呉市の街並みが見事に再現されています。片渕須直監督のリサーチ力に脱
帽です。片渕監督は、「戦争は最大の暴力。庶民が対抗するのは“暮らしぬく”ことだ」と話
し、その思いが「この世界の片隅に」に、しっかりと込められています。
主人公の声を演じる女優のんが、あとにもさきにもこの人しかいないと思わせるドンピシャリ
のはまり役です。1945年の8月6日を新たな視点で描く作品が誕生しました。
11月12日全国一斉ロードショー公開です。広島県内では、八丁座、広島バルト11、呉ポ
ポロ、T・ジョイ東広島、福山シネマモード、少し遅れて神辺エーガルエイト&シネマズで上
映されます。 (千寿)