2013/2月掲載

「手紙」「やがて復讐という名の雨」「ストレイト・ストーリー」


(C) 2006『手紙』製作委員会
(C) 2006『手紙』製作委員会

 

 手   

 

2006年公開 日本映画 上映時間201<予告編 

                  <ラストシーン

    STAFF

     監督・・・生野慈朗

     脚本・・・安倍照雄

     清水友佳子

     撮影・・・藤石修

     音楽・・・佐藤直紀

 

                CAST

                 武島直貴・・・山田孝之

                 武島剛志・・・玉山鉄二

                 白石由美子・・沢尻エリカ

                 寺尾祐輔・・・尾上寛之

                 中条朝美・・・吹石一恵

 

 川崎の工場で働く武島直貴(山田孝之)は周りの人々と距離を置いて生活しています。

 

 理由は兄の剛志(玉山鉄ニ)が直貴を大学にやるための学費欲しさに盗みに入った家で住人の老婦人を殺して

 

 しまい、千葉の刑務所で服役中だからです。兄弟は定期的に手紙のやり取りをしています。直貴は子供時代か

 

 らの親友・祐輔とお笑いコンビテラタケを組み、プロを目指しています。そんな直貴に惹かれた会社の

 

 食堂で働く由美子(沢尻エリカ)は何かと彼の世話を焼こうとします。やがてテラタケはブレイクしますが

 

 インターネットに直貴が殺人者の弟だという書き込みをされてしまいます。兄のことで散々差別を受けてきた

 

 直貴はテラタケコンビを一方的に解消してしまいます。更には新たに勤め始めた電気店でもそれが理由で

 

 店頭から倉庫に回されてしまうのです。直貴は兄を恨み、次第に手紙の返事も出さなくなります。そんな直貴

 

 を現実に向き合わせ、勇気づけたのが、由美子でした。数年が経ち、結婚した直貴と由美子の間には一人娘が

 

 生まれていました。しかしここにも差別の波が押し寄せてきます。公園で遊ぶ娘から親たちによって友達が離

 

 されていったのです。そのことを知った直貴はついに剛志に兄弟の縁を切りたいという手紙を書くのです。

 

 剛志は迂闊だったと謝り了承します。春、桜が満開のある日、剛志の服役する千葉の刑務所。親友・祐輔の

 

 提案で二人は服役者の前で一日だけのテラタケを演じます。兄に向けて励ますかのようなギャグを演じる

 

 弟。爆笑に包まれる観客の中には、泣きながら手を合わせ舞台上の直貴の姿を見つめる剛志の姿がありまし

 

 た。東野圭吾原作の映画化ですが原作では剛志が殺人を犯すまでの経緯が説得力のある筆致で描かれています

 

 がこの映画ではいきなり殺人の場面から入るので、そうなるまでの剛志の葛藤がよくわかりません。

 

 残念ながらそのことがラストシーンの感動を少し弱いものにしています。由美子が理不尽な世間に抗し直貴を

 

 励し、応援していく姿は清々しく感動的です。電気店の会長が直貴を諭す場面は世間をよく知った者だけが

 

 言える言葉として秀逸です。剛志(玉山鉄二)のセリフが極端に少なくとりわけ刑務所に入ってからは手紙を

 

 書く、作業をするなどのシーンだけで全くと言っていいほど喋りません。しかしラストシーンで彼がみんな

 

 持っていってしまうのです。感動します。

 


 

 やがて復讐という名

 

 2009DVD発売 フランス映画 上映時間205 <予告篇>日本語字幕なし

  

   STAFF

    監督・・・オリヴィエ・マルシャル

    脚本・・・オリヴィエ・マルシャル

    撮影・・・ドゥニ・ルーダン

    音楽・・・ブリュノ・クーレ

 

 

             

   CAST

      ルイ・シュナイゼル・・・ダニエル・オートゥイユ

                    ジュスティーヌ・・・・・オリヴィア・ボナミー

                    マリー・アンジェリ・・・カトリーヌ・マルシャル

                    リシャール・・・・・・・フランシス・ルノー

                    ジョルジュ・・・・・・・ジェラール・ラショル

 

 ダニエル・オートゥイユは大好きな俳優の一人です。この作品でも酔いどれ刑事を演じて存在感抜群です。

 

 その彼が前作「あるいは裏切りという名の犬」と同様にオリヴィエ・マルシャル監督と組んだ作品ですが、

 

 こちらは日本では劇場未公開です。タイトルは前作にあやかって付けたのが見えみえですが原題は「MR73

 

 でフランス警察の拳銃の型式を表しています。このタイトルの意味が最後に分かる仕掛けになっています。

 

 フレンチノワールというべき映画ですが刑事ルイ・シュナイゼル(ダニエル・オートゥイユ)が関わるのは

 

 ふたつ。ひとつは現在進行形のペット絡みの猟奇殺人事件。もうひとつはやはり猟奇殺人事件の犯人で25年

 

 前にルイに逮捕され無期懲役になったものの模範囚で出所して来る男。その男に両親を惨殺され、その現場を

 

 目撃したばかりにトラウマを抱えてしまったジュスティーヌがいます。一方ルイ自身にも交通事故で亡くして

 

 しまった娘と寝たきりになってしまった妻がいます。ルイはいつもやけ酒を飲み煙草を吸ってやり場のない気

 

 持ちをごまかしています。実に破滅的な生活です。どうしようもない警察内部の腐敗が犯人逮捕を妨げます。

 

 アメリカ映画の様に腐敗を暴いて正義が勝つといったことはなくどこまでも現実的です。ルイたちが進行形の

 

 方の猟奇殺人の犯人を追いつめますが、逆に反撃に遭い同僚を殺されてしまいます。犯人は上司の息子で、

 

 もみ消されてしまいます。プッツンしたルイが静かに復讐を始めます。容赦がありません。しかしその矛先は

 

 上司ではなく隠ぺいの片棒を担いだ同僚に向います。このあたりがカタルシスを阻害され、すっきり感がイマ

 

 イチとなる原因です。しかしテンポがいいので間延びした感はありません。ラストでジュスティーヌの出産

 

 シーンとルイの復讐のシーンとがカットバックでシャープに映しだされます。行き場を失った男の哀愁が漂い

 

 ます。良い悪いは別にしてアメリカ映画の様な予定調和ではありませんから最後まで結末の予想がつきませ

 

 ん。監督自身が元警察官だからなのでしょうが警察内部の腐敗ぶりはリアル感たっぷりです。

 

 ジャン=ピエール・メルヴィル監督などのフレンチ・ノワール作品群と比較して鑑賞したら面白いと

 

 思います。

 

 

 

 ストイト

 

    ストーリー 

 

  2000年日本公開 アメリカ/フランス合作 上映時間151 

                       <予告篇

  STAFF

   監督・・・デヴィッド・リンチ

   脚本・・・ジョン・ローチ

        メアリー・スウィニー

   撮影・・・フレディ・フランシス

   音楽・・・アンジェロ・バダラメンティ

 

                CAST

                 アルヴィン・ストレイト・・・リチャード・ファーンズワース

                 ローズ・ストレイト・・・・・シシー・スペイセク

                 ライル・ストレイト・・・・・ハリー・ディーン・スタントン

                 トム・・・・・・・・・・・・エヴァレット・マクギル

                 ドロシー・・・・・・・・・・ジェイン・ヘイツ

 

 「ワイルド・アット・ハート」「エレファント・マン」の監督とは思えない味わい深く静謐な作品です。

 

 格別の事件が起こるわけでもないのにしみじみとした余韻を残します。アイオワ州ローレンス。

 

 73歳の老人アルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)は家で転倒、杖の世話になることに

 

 なってしまいます。そんな矢先、十年前に喧嘩別れをして以来、音信不通だった兄ライル(ハリー・ディー

 ン・スタントン)が心臓発作で倒れたという知らせが届きます。兄が住む町までは500㎞以上も離れていま

 

 す。車ならせいぜい1日か2日の距離ですが、アルヴィンは車の免許もないうえに足腰が不自由なのでバスにも

 

 乗れません。頑固にも自分の力だけで兄の元を訪ねると決めたアルヴィンは、一緒に暮らす娘ローズ(シシ

 

 ー・スペイセク)の反対を押し切り、なんと芝刈機の後ろに手作りのトレーラーをつないで出かけるのです。

 

 しかし直ぐに故障して戻ってきます。これで諦めるかと思いきや懲りもせず、再び小型のトラクターを買って

 

 再出発します。町の老人仲間が気をもみつつ見守る姿にほのぼのとします。旅の途中で様々な人たちに出会い

 

 アルヴィンやローズの背負っている過去が少しずつ明らかになっていくのです。多くの人たちに助けられ、

 

 アルヴィンは時速5マイル(約8キロ)の“安全”運転で6週間もかけた長旅の末、ようやく兄の元へたどりつく

 

 のです。長かった人生を振り返り”けり”をつけるための旅だったのです。

 

 仲たがいした理由は明かされません。

 

 だだ、ふたりで夜空に輝く星を見上げるだけです。ニューヨーク・タイムズに掲載された 実話の映画化です。

 

 アルヴィン・ストレイトを演じたリチャード・ファーンズワースはアカデミー主演男優賞にノミネートされま

 

 したが受賞したのはケヴィン・スペーシー(アメリカン・ビューティー)でした。ちなみにデンゼル・ワシン

 

 トンもこの年「ハリケーン」でノミネートされています。