■■■2021年■■


スパイの妻 劇場版 大綱引の恋 ヒノマルソウル-舞台裏の英雄たち- 王の願い ハングルの始まり

生きろ 島田叡 戦中最後の沖縄県知事  83歳のやさしいスパイ キネマの神様 パンケーキを毒見する

アウシュヴィッツ・レポート 少年の君 ホロコーストの罪人 ミス・マルクス 梅切らぬバカ

沈黙のレジスタンス トーベ コレクティブ 国家の嘘 カウラは忘れない 老後の資金がありません!!

ジョゼと虎と魚たち

 

 

 

 

ジョゼ

 魚たち

 

 

韓国 2020年 1時間57分

 

韓国版『ジョゼと虎と魚たち』予告編 ハン・ジミン×ナム・ジュヒョクW主演でリメイク - Bing video

 

監督:キム・ジョングァン

 

出演:ハン・ジミン/ナム・ジュヒョク

 

 「20年近く経った今も全く色褪ることなく、青春恋愛映画の金字塔として愛され続けてい

る」と評される日本の実写版であるが、私にとっては否定的な印象が強かった。その要因として、あるネット評における指摘を引用すると、「真の愛であれば、障害者という壁をも乗り越えて当たり前なのに、日本版では、『恒夫』が結局逃げ出してしまい、大泣きすることになる。それは、本当に永遠であるべき愛が、障害者と結婚して生きるという重い現実のたいへんさに負けた悔し涙であったはずです」とあり、それは私にも突き刺さるものであった。他方で日本のアニメ版は、ジョゼを取り巻く障がい者福祉サービス描写が今日的水準をかなり反映しているように思われるとともにハッピーエンドであった点で、私にとっては好ましい内容であった。

 

 韓国版の経過において、「虎」の出る場面を注視したが、実際の「虎」をみに行くというより、幻影的な象徴としてほんの短い間しか出てこなかった。「魚たち」の登場が待ち遠しかっが、こちらは少し長めに取り上げられていた。

 

 結末がどうなるかというのも気になりながら観ていた。日本の実写版も、冒頭のジョゼとは大きく飛躍し、より自立心を感じり物を駆使していたものだったが、韓国版での乗り物の発展性には驚いた。当然と言えば当然だろう。

 

<鑑賞2021年11月>(竪壕)  

 

 

 

老後資金

  ありません!!

 

 

日本 2021年 1時間55分

 

映画『老後の資金がありません!』本予告 10月30日(土)公開 - Bing video

 

監督:前田哲

 

出演:天海祐希/松重豊/新川優愛/瀬戸利樹

 

 予告編から、コメディドラマで嫁姑戦争が凄いと予想したが、意外に殊勝な姑と意地っ張りな嫁が上手く折り合っていき、「宝塚」云々が圧巻の見せ場となっている。いくつかの笑いを誘う仕掛けがあり、夫婦の誤解を招く現存する共同生活形態が、最終的な着地点になったことにも感心した。

 

 脚本家も、最初はそりが合わなかった姑と主人公が、最後は「共犯者」となって巻き起こす騒動が脚色のテーマの一つだと述べている。そして、最終的な着地点となった現存する共同生活形態については、プロデューサーによると、「ディスタンス」という言葉が浸透する世界となった昨今に、家族をも含めた他人との距離感の表現として、原作小説にはない、映画ならではの提案であったとしている。

 

 ただ、主演夫婦役は、例えば、山田洋次監督作の『東京家族』の夏川結衣と西村まさ彦の

二人でも置き換えが利くような気もした。その場合は、「宝塚」云々と姑とのデュエットはできないだろうけど。草笛光子は、宝塚とは違う歌劇団出身のようであるが、それでも劇中歌はハードルが高かったらしい。けれども、その年齢で身体の柔軟性とある程度の歌唱力を保っている女優は考えつき難いところだろう。

 

 他方で、お金がない、と言いながら、この家族にとって健全な解決手段が見出せたのは、可処分資産があったからである。この作品ですら犯罪に手を染めかける場面があり、『日本の悲劇』や『万引き家族』のように追い詰められる家族にも思いを寄せるべきであろう。

 

<鑑賞2021年12月>(竪壕)  

 

 

 

カウラ忘れない

 

日本 2021年 1時間36分

 

映画「カウラは忘れない」予告編 - Bing video

 

監督:満田康弘

 

 同じ監督の作品である『クワイ河に虹をかけた男』と同様に、これまでにあまり光が当てられてこなかった、外地における旧日本軍の負の遺産を、現代に生きるわれわれが、どのように受け止めていくべきかという示唆に富んだ作品であると言える。また、想田和弘氏がいうように、当事者による貴重な証言をギリギリのタイミングで記録した貴重な作品でもある。

 

 あるネット評で、カウラ「を」忘れない、ではなく、カウラ「は」忘れない、であると指摘されているのは、日本軍の愚行を現地の人々が手厚く弔い、記憶に留めていたものを引き取りに行くようなものということではないかと思われた。

 

 ハンセン病に罹患した帰還者による、暴動当時、そして日本帰還後の処遇の実態についての貴重な証言、高校生による交流活動も描かれている。日本の劇団が、現地の人々の映画制作と合同し、暴動を思い止まろうか揺れる気持ちを描く劇中劇を展開していて、そこもみどころの一つである。唯一訪問した帰還者と現地の住民との質疑応答も課題を残し、同伴した若者たちが考え続けていた。そういう若い世代への提起の在り方を描いているところが意義深いと思われた。

 

<鑑賞2021年12月>(竪壕)  

 

 

 

 

 

 

国家

 

ルーマニア・ルクセンブルク・ドイツ合作 2019年 

1時間49分

 

 地道な調査報道を続けるジャーナリストを追う前半から一転、後半では熱い使命を胸に就任した新大臣を追い、異なる立場から大事件に立ち向かう人たちを捉えていくようになっている。 監督自身が撮影手法としてワイズマン等が推進した観察型を採用していると述べており、日本人監督でその撮影手法を採る想田和弘氏からは、被写体の撮影や公開への許可が驚異的なものであったことを高く評価するとともに、制作意図として、腐敗した社会を変えていく主体を政治家やジャーナリストといった一握りのスーパーヒーローではなく、私たち一人ひとりに求めているのではないかと提起されている。

 前半部の立役者として取り上げられている被写体のジャーナリストの果たすべき役割について、『アイ-新聞記者ドキュメント』で取り上げられた望月衣塑子氏は、身内からさえ過激ではないかと意見されながらも、権力への徹底追及が自己の使命であることに深い自覚と誇りを忘れていないルーマニアのジャーナリストたちの姿勢に日本も学ぶところがあると受け止めているようである。それにしても、ルーマニアでも金権腐敗を隠蔽しようとする力が強く働き、官僚も無気力で、改革派が動こうとしても、国民の政治選挙投票率は上がらず、既得権益勢力が横行する結末は、日本の現状にも合致していて実感があり、絶望を感じる。

 

 被害者の一人が電動義手を操作している場面は、『旅立とう、いま』で、サリドマイド児の吉森こずえ氏が、小学校に入学するために電動義手を重さと上着を着たための暑さに堪えながら使っていた映像と比べると、軽く便利になってきたものだと感じられた。

 

<鑑賞2021年10月>(竪壕) 

 

  

トーベ

 

フィンランド・スウェーデン合作 2020年  1時間43分

 

映画『TOVE/トーベ』10.1(金)公開|"ムーミン"作者の物語――【予告】 - Bing video

 

監督:ザイダ・バリルート

 

出演:アルマ・ポウスティ/クリスタ・コソネン/シャンティ・ルネン

 

 私自身が子ども時分に馴染んだムーミン物語は、アニメと小説版であったが、少し前に観覧したムーミン・コミック展ではイメージと違っていて、映画でも あまり縁がなかった。コミックを弟と一緒に描いていたことは、コミック展でも説明されていたが、弟の幼少期は全く描かれていなかった。映画では、父との確執がよく描かれている。しかし、いずこも同じ親心かなとも感じられた。

 異性の恋人であったアトスは、スナフキンのモデルとされるが、共通点は、今一つ感じられなかった。セクシュアルマイノリティであったことが明らかにされる。文学才能に満ち、同様にセクシュアルマイノリティでもあった女性を描いた『コレット』とは、主体性のあり 方に違いを感じた。また、踊る場面は、『ミス・マルクス』『グレタ』では、苦悩を秘めた様であるのに対して、この主人公が一番活き活きしているように感じられる。

 

<鑑賞2021年10月>(竪壕) 

 

 

 

沈黙のレジスタンス

 

アメリカ・イギリス・ドイツ合作 2020年 2時間

 

『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~』予告編 - Bing video

 

監督:ジョナサン・ヤクボウィッツ

 

出演:ジェシー・アイゼンバーグ/クレマンス・ポエジー/マティアス・シュバイクホファー/フェリックス・モアティ

 

 アウシュビッツでは、生産性のない子どもや高齢者が真っ先にガス室送りになったが、この作品では、大人が直ぐに殺され、子どもが取り残されて、逃げ延びていく。『少女ファニーと運命の旅』では、子どもだけで国境越えをしていたが、この作品では、引率した主人公たちが、レジスタンスの活動員で、その恋人は身内の拷問も受けたり、仲間が処刑されたりする場面も出ていた。『永遠のジャンゴ』は、ユダヤ人ではなくジプシーだったが、芸術家としての誇りをもち、抵抗して逃げ延びていった。「復讐より生き延びることが大事だ」という台詞は、『復讐者たち』にも通じるし、『ナチス第三の男』での暗殺敢行の結果、その報復も酷かったということなので、その方が賢明なのだろう。『母との約束、250通の手紙』では、ユダヤ人の母をもつ男性が、国外に逃げ延びて自由フランス軍で活躍しており、そうした動きも明らかにされていたので、被占領国であったフランスの戦い方も様々な形があったことがわかる。

 

<鑑賞2021年9月>(竪壕)    

 

 

 

切らぬバカ

 

日本 2021年 1時間17分

 

加賀まりこ&塚地武雅主演!映画『梅切らぬバカ』予告編 - Bing video

 

監督:和島香太郎

 

出演:加賀まりこ/塚地武雅/わたなべいっけい

 

 未婚独身ではなく、結婚という制度に拠らない理想的な男女の結びつきを語りながら、現実に選択した男性に翻弄されたマルクス家の女性の生き様を描いている。唯物論的な死生観も語られる。「パリ・コミューンの闘士」という賛辞を贈られる場面があり、関連した写真が出るくらいで闘争場面はあまりないが、工場調査での実績描写だけでも、これまでほとんど知られなかった歴史的功績を明らかにした作品として、十分評価に値するのではないか。 あることで、役づくりが実体験に基づいて上手く行われたようである。

 

<鑑賞2021年11月>(竪壕)   

 

 

 

ミス・マルクス

 

 

イタリア・ベルギー合作 2020年 1時間47分

 

9/4(土)公開/映画『ミス・マルクス』予告編 - Bing video

 

監督:スザンナ・ニッキャレッリ

 

出演:ロモーラ・ガライ/パトリック・ケネディ/ジョン・ゴードン・シンクレア

 

 未婚独身ではなく、結婚という制度に拠らない理想的な男女の結びつきを語りながら、現実に選択した男性に翻弄されたマルクス家の女性の生き様を描いている。唯物論的な死生観も語られる。「パリ・コミューンの闘士」という賛辞を贈られる場面があり、関連した写真が出るくらいで闘争場面はあまりないが、工場調査での実績描写だけでも、これまでほとんど知られなかった歴史的功績を明らかにした作品として、十分評価に値するのではないか。 

 

<鑑賞2021年10月>(竪壕)   

 

 

 

ホロコースト罪人

 

ノルウェー 2020年 2時間6分

 

映画『ホロコーストの罪人』予告編 - Bing video

 

監督:エイリーク・スベンソン

 

出演:ヤーコブ・オフテブロ/ピーヤ・ハルボルセン/ミカリス・コウトソグイアナキス

 

 『ヒトラーに屈しなかった国王』では、ナチスの電撃作戦により、ノルウェーがたちどころに降伏していたが、この作品では、その前の平和な時期から、ボクサーのユダヤ人青年の家族の行く末を描いたノンフィクションの実話を丁寧に再現しているようである。

 両親は、ナチスのユダヤ人虐殺方針を十分理解しないまま、ユダヤ人調査に正直に回答しようとし、子どもにも従わせていた。しかしそれがユダヤ人選別のための台帳として活用されていく。母親は、手続のたびに受付事務員に問い合わせようとするのだが、何も答えてもらえなかった。隠し財産も探し出され、自分の隠れ場所も突き止められてしまっていた。

 スウェーデンに逃れた人々もいたが、『ソニア』では、中立国としてスウェーデンの払ってきた努力の様が描かれていた。ボクサーである主人公を除く残りの家族がアウシュビッツ収容所に送られ、貨車から降ろされて、女性、子ども、45歳以上の男性は、シャワーを浴びるからと服を脱がされた後、ガス室送りになるところは、現地で受けた説明通りであった。

 

 その後の家族それぞれと虐殺に加担したノルウェー秘密国家警察副本部長の行く末、そしてノルウェー政府の謝罪について字幕で説明されるが、ナチス占領下におけるユダヤ人狩りや協力については、フランス、オランダを含む国々でもみられたのではないだろうか。

<鑑賞2021年9月>(竪壕)  

 

 

 

 

中国・香港合作 2019年 2時間15分

 

映画『少年の君』予告編 【アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート】 - Bing video

 

監督:デレク・ツァン

 

出演:チョウ・ドンユイ/イー・ヤンチェンシー/イン・ファン/ホアン・ジュエ

 

 製作国として香港も関わっていて、学校が高層建築で、受験競争も厳しいところから、香港の教育事情を描いたものかと思ったが、ロケ地は重慶で、末尾の字幕で中国のいじめ防止法の説明がなされていて、どこまで実話なのかわからないが、中国でも階層格差や学校でのいじめが深刻であるという実態が窺える作品となっている。 学校の対応で上手く解消された例として『ワンダー』を挙げることができるが、この作品では、警察が出てきて親を通して説諭しても激化を招き、チンピラ用心棒に頼る展開となっている。さらに、男女が協力して邪魔者を闇に葬り去るという展開は、ネット評にもあるように既視感があるものの、結末としては、刑事が述べるように、子どもの犯罪をそのまま見過ごしにしていないところが見事である。

 

 <鑑賞2021年9月>(竪壕)   

 

 

アウシュヴィッツ

 

レポート

 

スロバキア・チェコ・ドイツ合作 2020年 1時間34分

 

映画『アウシュヴィッツ・レポート』予告編 - Bing video

 

監督:ペテル・ベブヤク

 

出演:ノエル・ツツォル/ペテル・オンドレイチカ/ジョン・ハナー

 

 現地に一度訪れてから作品を観ると、現地で見聞きしたことと色々と比べたくなる。アウシュヴィッツというよりも、近接する大規模収容所であるビルケナウであるようだ。ナチス高官の専横振りに、とても悔しい思いがする。『ちいさな独裁者』にも通じるだろう。

 隠れた場所が何か箱のようなもので、箱ごと外に運び出されるのかと思ったが、そうではなかった。蓋が開かなくなって外に出られなくなったときは、『サラの鍵』のようになるのかとも思った。脱出後の逃避行の不安は、ユダヤ人とは関係ない『異端の鳥』も含んで、はらはらしたが、この作品の経過には物足りなかった。虐殺体験を詳細に伝えて救出を依頼するのは、並大抵ではないと思ったが、脱出前から記録係として蓄積があったようである。

 つい先頃、NHKEテレのドキュメンタリー『死者たちの告白』で、ゾンダーコマンドと呼ばれるユダヤ人のナチス協力者が脱出して連合国に情報を流したことを取り上げていたが、その番組では、ポーランド出身者の行動を取り上げていたので、この作品の展開内容とは必ずしも一致していないようである。

 煮え切らない赤十字職員に対して、脱出者たちは収容所への空爆を望むが、もし空爆して証拠が跡かたなくなっていたら、『否定と肯定』以上に反論が困難になっていただろう。エンドロールは、否定論者の動向とつながっている。

 

 「本年度米アカデミー賞国際長編映画賞のスロバキア代表に選出された」というのは、ハリウッドの授賞式で受賞したという意味ではないので、この文言に惑わされないようにしたいものである。

<鑑賞2021年7月>(竪壕)  

 

 

 

パンケーキ

 毒見する

  

日本 2021年 1時間44分

『パンケーキを毒見する』60秒予告 2021年7月30日(金)公開 - Bing video

 監督:内山雄人

 ナレーター:古舘寛治

 

 企画者の河村光庸氏は、パンフレットの序文に「『パンケーキを毒見する』は、現役政権のトップを題材とした日本映画史上はじめての作品となりましたが、この150日間の間に『スカスカ政権を明らかにする』という当初のコンセプトが吹き飛んでしまった事は想定外で、今やさらに悪いズタズタ政権といってもよいでしょう」と述べ、予告編からは、パンケーキのように甘い戯画化に終始するのではないかと思って、あまり観ようという気が起こらなかったが、薦める人もいたので観てみた。

 あるネット評では、みどころを①菅義偉の本質は「博打打ち」「ケンカ師」、②安倍政権・菅政権は「仕返し政権」である、③なぜ「しんぶん赤旗」はスクープを連発できるのかの3点に集約し、解説していた。

 パンフレットでは、前述の③に関連して、623日に開催された公開記念トークセッションの発言内容も掲載されていて、東京新聞の望月記者は、「今回は東京新聞というよりはむしろ赤旗さんでしたよね。やっぱりメディア対権力という意味で言うと記者クラブの記者の中にいる私たちがやっぱりやるべきことがやれてないっていうテーマをもう一回突きつけられたなと思いました」と評価しており、この点が確かに『アイー新聞記者ドキュメント』を超えた部分であり、日常テレビニュースでも隠されている大きな問題点だと思った。

 

 再び河村氏の言葉を引用すると、「選挙前のこの時期にあえてこの映画をぶつけ、『選挙に影響を与えるべき映画』になったなら、この暗黒時代にまずは改めて、『メディアとは? ジャーナリズムとは? そして映画とは?』の"言葉"が飛び交う事を深く願うものです」と述べられている。果たして河村氏の期待を叶えた結果をもたらすかどうか、まずは観てから各人が判断しよう。

  <鑑賞2021年8月>(竪壕)  

 

 

 

日本 2021年 2時間5分

 

映画『キネマの神様』【特報】8月6日(金)全国公開 - Bing video

 

監督:山田洋次

 

出演:沢田研二/菅田将暉/永野芽郁/野田洋次郎

 

 山田洋次監督作品の常連としては、小林稔侍くらいしかいない顔触れで、台詞が硬い感じで、リリー・フランキー演じる監督の言うように、俳優が道具として扱われているような感じを受けた。

 

 過去との行き来や画面と観客席の出入りは、『海辺の映画館』や『今夜、ロマンス劇場で』『松永天馬殺人事件』でも、それぞれの試みがあったが、この作品では、割合に滑らかだった。『カツベン!』のような映画界の回顧作品でもあった。このような結末もありがちに感じられたが、それまでの夫婦関係の選択を最後に否定することにもなるのではないかと疑問に思ったし、娘と父との確執解消が、あまりにでき過ぎな印象であった。

 

<鑑賞2021年8月>(竪壕)  

 

 

 83

 やさしいスパイ

 

 

 

チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン 2020年 1時間29分

 

映画『83歳のやさしいスパイ』予告編 - Bing video

 

監督:マイテ・アルベルティ

 

出演:セルヒオ・チャミー/ロムロ・エイトケン

 

 私自身が福祉施設への公式な苦情解決委員を務めたこともあり、虐待の懸念のある福祉施設にも「見学」で内情を探ろうとしたこともあるので、とても興味を惹かれた。しかし、この作品はドキュメンタリーと銘打ちながら、とても作為的に感じた。想田監督による観察映画の手法もある一方で、「映画が福祉に参加した」と評される『夜明け前の子どもたち』は、暗部や家族による訪問が遠のく実態も描き出していたように、監督自らによる取材だけで十分なのではないだろうか。付き添いを必要とせず、利用者同士での外出を認めるような運営体制は、日本も大いに学ぶべきであり、この施設の運営体制自体を肯定的に評価すべきである。

  高齢者施設における男女関係を描いた日本の作品として、『百合祭』『ホーム・スイートホーム』『「わたし」の人生』があり、さらに浜野監督は『雪子さんの足音』も発表している。

  外国の福祉施設ドキュメンタリーとしては、『僕がジョンと呼ばれるまで』や『パーソナルソング』も優れており、ワイズマンも多数の超長編作品を残している。

 

<鑑賞20217月>(竪壕) 

 

 

 

生きろ

 島田叡

 戦中最後の

 沖縄県知事 

 

 

日本 2021年 1時間58分

 

ドキュメンタリー映画「生きろ 島田叡-戦中最後の沖縄県知事」予告編 県民の命を守ろうとした沖縄戦時の県知事・島田叡を追う - Bing video

 

監督:佐古忠彦

 

語り:山根基世/津嘉山正種/佐々木蔵之介

 

 「軍隊は住民を守らない」という帰結は、三上・大矢監督作『沖縄スパイ戦史』が明らか

 

にしていたことと共通している。『沖縄スパイ戦史』の方は、本土からやってきた工作員が

 

現地住民を騙して危険に晒すが、『生きろ』では、牛島陸軍中将が最大の愚策立案遂行者と

 

して責めを負い、主人公の島田知事と大田海軍少将は、ともに本土からやって来たにもかか

 

わらず、住民の犠牲を慮る姿勢を出していたことが評価されている。アメリカ軍の激烈な戦

 

闘場面は、『ハクソー・リッジ』にも描かれていたが、『生きろ』では、戦闘場面より、住

 

民が投降後にアメリカ軍に保護される様子が映像で流れ、安心感があった。

 福岡での佐古監督のトークでは、ちょうどコロナ禍におけるリーダーのあり方が問われて
る時代に相応しい作品だと評価されていた。2013年にテレビ放映されたドラマ版のドキュ
メンタリー映像を活用して映画を制作しようと考えて、大田元沖縄県知事への取材を起点と
して、島田知事への肯定的な証言を集め、乏しい本人の写真や著述を補い、ナレーションを
全体を俯瞰する山根基世から、島田知事の声を佐々木蔵之介にしたことが効果的だったと言
われたが、私も同じように感じた。島田知事が、当時の情勢における限界を見据えつつも、
「民主的な」行動を執れ背景として、大正デモクラシーの時代で育ったこと、三高・東大
の野球部でスポーツマンシップの精神が培われたことが挙げられていた。牛島中将には、人
の好さのエピソードがあるにもかかわらず、住民を巻き添えにする途を選んだのは、本土決
戦の時間稼ぎが目的であったという指摘もあった。欲を言えば、つい最近までNHKキャス
ターであった東大野球部出身のジャーナリストのコメントも織り込めていたら、一興あった
のではないかと感じた。
<鑑賞2021年7月>(竪壕) 

 

 

願い

 

 

ハング始まり

 

 

韓国 2019年 1時間50分

 

<https://www.youtube.com/watch?v=fp7PduLu7B4>

 

監督:チョ・チョルヒョン

 

出演:ソン・ガンホ/パク・ヘイル/チョン・ミソン/キム・ジュンハン/チャ・レヒョン/タン・ジュンサン

 

 昨年観た『マルモイ ことばあつめ』では、全国の方言を集めた辞典をつくりながら、日本

 

治の圧政の目を搔い潜る、民族固有文化を守る気概を感じたので、そのハングルが生まれ

 

点を観ることができることを楽しみにしていた。

 

 冒頭で日本から来た僧たちが経典の原版をもらい請けしようとして、この国における仏教

 

意外な地位の低さを知った。僧の使うサンスクリット語から、新たな言語表記のヒントを

 

て、その僧を言語づくりの中心に据えることとなったが、パンフレットの解説によると、

 

証拠はないらしい。王が独自の言語表記をつくろうとした意図として、中国の文化支配

 

ることもあったようで、そのことも重臣たちの反対を受ける理由にあった。そこも、

 

『マイ』の背景と少し共通するところがある。

 

 僧は、平易で美しい簡略な文字をつくろうとしていて、王とも意見を対立しながら、折り

 

いを衝けていったところは、明治初期の日本訓盲点字を作成する過程で、石川倉次が他の

 

案を参考にしながら、最終案を取りまとめる功労者として名を残したことと少し似てい

 

思った。

 

 僧が王に対して、民に規範を強制してはならない、と戒めるのは、当事者の遣い易さを尊

 

する姿勢につながる。このときの朝鮮に六点点字が伝わっていたら、その表記でハングル

 

くられた可能性だってあるのではないかと思えた。フランスでの点字の発案者であるブ

 

ユが当事者だったのに比し、日本での石川倉次や、手話のド・レペは当事者ではない

 

が、ほど批判は目立たたないので、当事者の遣い易さは尊重されていたのだろうと推定

 

い。

 

 女性でも文字を使い、知識を吸収できることを願った王妃の発想は、日本のひらかな使用

 

推進した紀貫之にも通じている。訓民正音や諺文という言葉は、高校日本史の教科書にも

 

きたことを覚えているが、そこに「王の願い」が込められていたということが理解でき

 

た。れはまた、パンフレットでの批評にもあるように、王と王妃と僧との和解でもあった

 

だろう。

 

<鑑賞2021年6月>(竪壕) 

 

 

 

ヒノマルソウル

 -舞台裏英雄たち-

 

 

日本 2021年 1時間55分

 

<https://hinomaru-soul.jp/movie.html>

 

監督:飯塚健

 

出演:田中圭/山田裕貴

 

 2014年ソチ冬季オリンピックでジャンプ競技銀メダルを獲得し、「レジェンド」と称えられるようになった葛西選手が、長野オリンピックジャンプ団体競技選手から外されていたことは語り草になっているが、まだ蔭に隠れたままのさらに悲運の選手がいたことがわかった。

 事実を丁寧に取材し、再現するとともに、「心の中に秘めていたことが文字になっていた」と本人から評価された脚本を基に、俳優それぞれが、モデルとなった実在の人物と直接、間接に寄り添い学んで役づくりを進め、出来栄えも本人や家族から高く評価されているという。

 また、古田新太が演じる憎まれ役の神崎監督が、悪天候のため一時中止された競技再開の条件として提示されたテストジャンプ実施に抗議する姿勢と、テストジャンパーたちが一丸となって志願する姿勢との葛藤場面は、現下のコロナ禍における東京オリンピック開催に関わって、最前線の現場関係者での懸念の意見と決行の意見との葛藤にも準えることができ、こちらについても、一方的でなく互いの主張をよく汲み入れた進み方を採っていくことを期待したい。 

<鑑賞2021年6月>(竪壕) 


 

 

綱引

 

 

日本  2020年 1時間48分

 

<https://www.youtube.com/watch?v=qNYbta4MFe0>

 

監督:佐々部清

 

出演:三浦貴大/知英

 

 鹿児島在住時に川内大綱引の噂は聞いてはいたが、現地には行ったことがなかったので、この映画を観て、雰囲気を垣間見ることができた。

 同じ佐々部監督の鹿児島当地2013年制作作品の『六月燈の三姉妹』より、ストーリーがしっかりした印象であった。「男尊女卑」とみられがちな鹿児島ながら、女性がそれぞれ頑張り、男性も家事をこなす努力をしていたのは良かった。

 鹿児島県出身の名優2人が友情出演し、鹿児島を舞台とした作品に子役で主演した俳優も出演していた。地元大企業である山形屋と鹿児島銀行も、しっかり取り上げられていた。 甑島には行ったことがあって、独自な魅力のある島の一つであり、テレビ版のロケ地の島とは異なるものの、この作品での医師役も、コトー医師のように、白衣を風になびかせて島内を自転車で駆っていた。

 

 韓国との縁を描く作品としては、『ホタル』を挙げることもできる。

 

<鑑賞2021年5月>(竪壕)  

 

スパイ 劇場版

日本  2020年 1時間55

 

https://wos.bitters.co.jp/

 

監督:黒沢清

 

出演:蒼井優/高橋一生/板東龍汰/恒松祐里

              

 高橋一生が演じた男性は、『おんな城主直虎』の家老政次を彷彿とさせる役柄であった。妻は、自分たちだけの小さな幸福のみを追求するような愚かな女性かと思ったら、大胆な行動に出るにもかかわらず、騙されてしまった。妻と同じく、観客も皆騙された感がある。取り残された妻は、発狂したかにみえ、『ラスト・プリンセス』にも似て非なる筋書きであり、大仰なアクションこそないものの、先を読ませない知性的な演技で、旧日本帝国主義批判を描いてきた韓国映画を上回るものであると言って良いくらいのでき栄えである。そのような平和主義のダンディーな男性が、国外脱出後に生き延びることができたのか、謎のまま終わったことに余韻が残った。

 

<鑑賞2020年12月>(竪壕)