2012/9月掲載
「ディア・ブラザー」「パピヨン」「運命じゃない人」
ディア・ブラザー
2010年 アメリカ 1h47<予告篇>
STAFF
監督・・・トニー・ゴールドウィン
脚本・・・パメラ・グレイ
撮影・・・アドリアーノ・ゴールドマン
音楽・・・ポール・カンテロン
CAST
ベティ・アン・ウォーターズ・・・ヒラリー・スワンク
ケニー・ウォーターズ・・・・・・サム・ロックウェル
エイブラ・ライス・・・・・・・・ミニ―・ドライヴァー
ナンシー・テイラー・・・・・・・メリッサ・レオ
日本劇場未公開です。殺人罪で無期懲役になった兄を助けるために弁護士になった女性
ベティ・アン・ウォーターズの半生を描いた実話です。
ベティ・アン(ヒラリー・スワンク)と兄のケニー(サム・ロックウェル)は仲の良い兄妹です。
母親が育児放棄をしており兄妹で助け合わなければ生きていけなかったのです。学校にも満足に行かず、
万引きはもとより留守家庭に入り込み食料やお菓子を盗んだりもしていました。
そのため警察の厄介になることもしばしばです。気の短いケニーは成人し結婚してからも何かとトラブルを起こし
警察に目をつけられていました。そんな中、同じ町に住むある女性が凄惨な殺され方をします。
その事件の2年後、祖父の葬儀の最中にケニーが殺人容疑で逮捕されます。それは警察のでっち上げでしたが、
貧しい兄妹には弁護士を雇うお金がありません。やむなく国選弁護士で裁判に臨みますが一審、二審とも有罪と
なり 死刑制度のないマサチューセッツ州なので仮釈放のない終身刑が言い渡されます。
ケニーは絶望し自殺を図ります。そのことを知ったベティ・アンは高校卒業の資格を取り、さらに大学を卒業後、
ロースクール、司法試験に挑戦、自らが弁護士になって兄を救い出すことを決意するのです。
それはシングルマザーとなり二人の子供を抱えてのベティ・アンの気の遠くなるような18年以上にわたる
闘いの始まりでした。
映画も資金難に苦しみながらトニー・ゴールドウィン監督、9年越しの執念の末に完成しました。
製作総指揮に主演のヒラリー・スワンクが名を連ねています。
パピヨン
1974年日本公開 アメリカ/フランス 上映時間2h30
<テーマ曲+映像>
STAFF
監督・・・・フランクリン・J・シャフナー
脚本・・・・ダルトン・トランボ
ロレンツォ・センプル・ジュニア
撮影・・・・フレッド・J・コーネカンプ
音楽・・・・ジェリー・ゴールドスミス
CAST
パピヨン・・・・・スティーブ・マックイーン
ルイ・ドガ・・・・ダスティン・ホフマン
マチュレット・・・ロバート・デマン
クルジオ・・・・・ウッドロー・バーフリー
パピヨン(スティーブ・マックイーン)。彼は胸に蝶の入れ墨をしているためにそう呼ばれています。
パピヨンは金庫破りですが仲間の裏切りに遭い殺人の罪を着せられ終身刑になります。
そして南米ギニアのデビルズ島に流されるのです。一緒に島に渡った仲間にルイ・ドガ(ダスティン・ホフマ
ン)がいます。彼は偽札作りの名人ですが、偽造国債を作ったために多くの人が被害を受け、絶えず命の危険に
晒されています。島に渡るまでその命を守る約束でパピヨンはドガに近づきます。
脱走するための金が必要でした。島に渡ればまず命の危険はありません。規則に違反すればたちまち数年の
独房暮しが待っているからです。大人しくしてさえいれば日々の生活は安泰なのです。
でもパピヨンはみずからの自由への希求を押さえきれません。1度目は出入りの業者の裏切りによって2年。
2度目は成功したと思われた矢先、密告され5年の独房行きになってしまいます。
3度目の脱走に失敗すれば待っているのはギロチンです。
たび重なる独房生活のためにパピヨンの毛髪は老人のように真っ白になっています。
深い友情で結ばれたドガとともに隣の断崖絶壁の島に送られたパピヨンはそれでも命を賭けた三度目の脱走を
企てるのです。「自由」を求め続けた男の一大抒情詩です。原作はアンリ・シャリエール< パピヨン>本人の
実話です。哀愁を帯びたジェリー・ゴールドスミスのテーマソングが素晴らしい効果をあげています。
こぼれ話
◆監督は東京生まれのフランクリン・J・シャフナーですがフィルムを湯水のごとく使うことで有名で
上映時間の20倍~30倍は平気で使ったといわれています。従ってこの映画でも50~80時間分のフィルムを
使ったと思われます。
同監督の作品には「猿の惑星」(1968年)「パットン大戦車軍団」(1970年)などがあります。
◆シナリオのダルトン・トランボはマッカーシズムに屈しなかったハリウッドテンの一人で、主な脚本には
この映画の他に変名で書いた「ローマの休日」(1953年)やスパルタカス(1960年)があります。
また「ジョニーは戦場に行った」(1971年)では脚本とともに監督も務めました。
この「パピヨン」ではファーストシーンで囚人たちに引導をわたす刑務所長の役で出演もしています。
運命じゃない人
2005年 日本映画 1h38 <予告篇>
CAST
宮田武・・・・・中村靖日
桑田真紀・・・・霧島れいか
神田勇介・・・・山中聡
浅井志信・・・・山下規介
倉田あゆみ・・・板谷由夏
STAFF
監督・脚本・・・内田けんじ
撮影・・・・・・井上恵一郎
音楽・・・・・・石橋光春
不思議な映画です。主な登場人物はほんの数人、しかも一夜限りの物語です。
人を疑うことを知らないサラリーマン宮田はいつも損な役目を引き受ける羽目になってしまいます。
そんな宮田と関わりをもった人たちが宮田の知らないところで次々とお互いが数珠つなぎのように
関わっていき最後にはまた宮田のところへもどってくるという、まるで「しりとり」のような映画です。
物語は時間軸を少しづつ戻しながら進行していきます。この監督(脚本)の事実上の長編デビュー作ですが
細部にまで神経が行き届いており観終わった後、思わずにんまりしてしまいます。
伏線の張り方もうまく説明過多にもなっていません。とりわけやくざの親分、浅井が宮田のマンションに
忍び込みベッドの下に隠れる場面では浅井の視野は床とベッドの隙間、上下30センチ程度しかありません。
それをうまく利用して、浅井の眼に見えるもの、見えずに想像力を喚起させるもの、その絶妙な演出(脚本)に
は感心します。すべての者が何かしら弱みを持っておりそのことが物語を前に進めていく「てこ」になって
いるのです。アイデアで勝負し、みごとに成功しています。
タイトルの付け方も言い得て妙です。2005年カンヌ映画祭で4冠受賞にも納得です。
内田監督はこの作品の3年後、「アフタースクール」を監督(脚本)し、「運命じゃない人」が
フロックではなかったことを証明してみせました。
今年9月15日~3作目「鍵泥棒のメソッド」(シネツイン・新天地)がやってきます。