2012/11月掲載
「人生の特等席」「希望の国」「009 RE:CYBORG]「北のカナリアたち」「コッホ先生と僕らの革命」「いわさきちひろ~27歳の旅立ち~」
人生の特等席
2012年日本公開 アメリカ映画 上映時間1h51<予告篇>
STAFF
監督・・・ロバート・ロレンツ
脚本・・・ランディ・ブラウン
撮影・・・トム・スターン
音楽・・・マルコ・ベルトラミ
CAST
ガス・ロベル・・・・・・・・・・・・クリント・イーストウッド
ミッキー・ロベル・・・・・・・・・・エイミー・アダムス
ジョニー・フラナガン・・・・・・・・ジャスティン・ティンバーレイク
フィリップ・サンダーソン・・・・・・マシュー・リラード
ビリー・クラーク・・・・・・・・・・スコット・イーストウッド
クリント・イーストウッド主演でなければ、余り気をそそられない題名ですが、野球の引退前のスカウトと
その娘の話です。出だしの老残な容貌、体調のイーストウッドには、ちょっとギョッとしますが、いつもの
ユーモアのある皮肉な口ぶりと、地方球場を回りだしてからは、髪が生えてきたかのように次第に格好良く
なります。イーストウッドと若いスカウト、弁護士の娘とその同僚、追いかけるドラフト指名候補の選手と?、
というライバルというか、競い合う幾つもの話が糸を縒るように進みます。これに、心ならずも現役を止めて
違う道に向かおうとする元野球選手が絡んできます。口べたな親父と娘との和解、それぞれが負けそうに
なりながら・・・。思いがけなくにんまりとする終盤へという、山田洋次監督の作品のような
「ああ、見て良かった!」という映画です。
脇役の親友もいいし、他のチームのスカウト達もいい味を出しています。
いつもみんなと違うことを言うスカウトは、最後の字幕を見ると、ひょっとしてエド・ローター?
彼なら、あのR・アルドリッチ監督の快作「ロンゲスト・ヤード」の憎っくき看守役。
また、法律事務所の役員の1人は、「ショーシャンクの空に」の刑務所の所長役だし、イーストウッドのチームの
GMは、「タ-ミネーター2」の敵方サイボーグ役で、悪役役者のオンパレートというのも面白い。
最後のおまけ、娘の野球振りがいい!!。女性の野球と言えば、M・リッチー監督の「頑張れ!ベアーズ」の
テイタム・オニール演ずる少女ピッチャーが一番いいけれど、この娘もなかなかのものです。
(2012/11/24 い)
『希望の国』
『ヒミズ』でも、東日本大震災を取り上げた鬼才・園子温監督が
大震災、そしてその後の原発問題に、真正面から向き合った
作品である。福島後に再び原発事故が起きたという想定。
その場所は「長島県」。もちろん、広島、長崎、福島県を連想
させる。ある農家の同じ敷地内に引かれた、警戒区域を示す黄色いテープと「立入禁止」の文字。
この境界は何を意味するのか―。初老の夫婦、同居する息子夫婦、そして隣家の息子とその恋人の3組の男女の
苦悩は―。そして、将来の日本に「希望の国」は描けるのか―。いま、やるべきことを考えさせる力作に
違いない。(F)
『009 RE:CYBORG』
サイボーグ009を3DCGでリメーク。
世界各地で起る自爆テロ。その発端は、天使の化石だった。
いや、何ともいえないストーリーだね。もちろん、戦争を
影から繰り利益を上げる武器商人ブラックゴースト団なんて
話を今さら作っても失笑されるだけだろうけど。
創造主が、失敗作である人間を削除していく。これ、一見さんの観客には伝わらないよ。
映像作品としてはよくやってるけど。やたら説明的セリフで物語を進めていくのもどうか。
古い皮袋に新しい酒を入れたかったんだろうが、今一歩だっだみたい、残念でした。(Y)
『北のカナリアたち』
湊かなえ原案ということで、寒々とした内容かと思っていたら、
定番のお涙ちょうだいだった。そして、まんまと泣かされて
しまった。離島の小学校に赴任して来たはる先生を、
6人の生徒たちは慕っていたが、ある事故をきっかけに、
彼女は島を出て行ってしまう。20年後、生徒の1人が
殺人事件を起こしたと聞いたはるは、彼の消息を尋ねる旅に出る。旅の過程で明らかになっていく真実は
重苦しいが、子供たちの美しい歌声が救いになっている。(I)
コッホ先生と
僕らの革命
2012年日本公開 ドイツ映画 上映時間1h54 <予告篇>
STAFF
監督・・・・セバスチャン・グロブラ―
脚本・・・・フィリップ・ロス
ヨハンナ・シュトゥットゥマン
撮影・・・・マルティン・ランガー
CAST
コンラート・コッホ・・・・・・ダニエル・ブリュール
グスタフ・メアフェルト・・・・ブルクハルト・クラウスナー
リヒャルト・ハートゥング・・・ユストゥス・フォン・ドホナーニ
フェリックス・ハートゥング・・テオ・トレブス
ヨスト・ボーンシュテッド・・・アドリアン・ムーア
ほとんど宣伝のない、ぴんとこない題のドイツ映画ですが、サッカーというスポーツを介した先生と子ども達の
話です。
舞台が、19世紀後半のドイツ帝国の学校ですから、明治政府が参考にした「規律と服従」、「皇帝のために
命を」という時代です。そこに、サッカーです。野球と違って、サッカーは、競技が始まれば、監督やコーチに
指示や命令をされることなく、プレイヤー自身が自分の意思と頭でプレーをしなくてはならないスポーツです。
また、映画の中では、フェアプレー、仲間とのプレーが大事だということが強調されています。
サッカーという、「服従」とは全く相反したものを持ち込むことで、学校の中に混乱が起きます。
コッホは、現代のドイツサッカーの産みの親で、その若き時代の実話です。
130年以上も前の学校のことなのに、今の日本に何故か重なる感じがあります。
2012/11/11サロンシネマにて(い)
いわさきちひろ~27歳の旅立ち~
2012年公開 日本映画 ドキュメンタリー 上映時間1h36 <予告篇>
監督・・・・・・海南友子 出演・・・・・・黒柳徹子
高畑勲
中原ひとみ 他
ナレーション・・加賀美幸子
ちひろの描く子供たちの特徴は眼にあると思います。その眼はあどけなさを宿しているように見えますが、
私たちの心の底を見通しているようでもあり容赦がありません。
とりわけそれは病の床にありながら執念で描きあげた「戦火の中の子どもたち」に顕著に表れています。
私たちの知るちひろの絵はそんな画風ですが27歳以前(戦前・戦中)のものは全く違います。
幼い時から絵に興味を持ち岡田三郎助に師事していた彼女は画家になることを決意しますが親の猛反対で
断念します。さらに親に強制された結婚は悲劇的な結末を迎えてしまいます。
1944年満州で悲惨な戦争の実態に触れ帰国しますが、東京大空襲で実家は消失してしまいます。
これらの出来事が影を落としたのか当時の作風(デッサン)は暗く荒々しいものです。
戦後彼女は自分の意思をしっかりと持ち再度画家として生きていくことを決意するのです。
そして、今では当たり前のことですが、絵本作家としての権利を主張し著作権確立に尽力したことは
特筆すべきでしょう。再婚後、長男猛 が生まれてからの ちひろ は相変わらず困難な生活ながら前を向き
実に生き生きとしています。この映画はそんな知られざる いわさきちひろ のもう一つの「顔」も
教えてくれます。 1974年8月8日没55歳 (2012/11/4日サロンシネマにて・紅孔雀)