「アメリカン・スナイパー」「トラッシュ!この街が輝く日まで」「妻の病-レビー小体型認知症」
アメリカン・スナイパー
2014年製作 アメリカ映画 上映時間2h12 <予告篇>
監督:クリント・イーストウッド / 脚本:ジェイソン・ホール / 原作:クリス・カイル
出演:ブラッドリー・クーパー / シエナ・ミラー / ルーク・グライムス
クリント・イーストウッド監督が、米軍史上最強といわれた狙撃手クリス・カイルの
自伝を映画化した作品です。クリスは幼い時から父親に「羊を狼から守る番犬になれ」
と強い愛国心を持つよう育てられます。そんなクリスですから9.11の世界貿易センター
ビルの崩壊を見て米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊するのは当然の成り行きで
した。訓練の様子はスタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」を
想起させます。クリスは結婚式の3日後、イラクに派兵されます。そして、持ち前の
射撃のスキルを存分に発揮して多くの「敵」を狙撃し、「レジェンド(伝説)」の異名
をとることになるのです。しかし、敵にも凄腕のスナイパーがいて味方にも多くの犠牲
者が出ます。クリスはこの敵スナイパーを倒すことに執念を燃やします。クリスは都合
4回イラクに行きますが、次第にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に悩まされ
るようになります。それはクリスが帰省中に飼い犬を「狼」と間違えるシーンとして
象徴的に挿入されます。今までクリスが殺してきた人間は狼ばかりだったのだろうか。
イラクに大量破壊兵器はなく何のための戦争だったのか・・・。
クリスには弟がいますがクリスとは対照的に「こんな戦争はクソだ」と言い放ちます。
「戦場」から抜けることができないクリスに妻の悩みは極限にまで達します。
この映画の製作中に思いもかけないある出来事が起こりシナリオが変更されました。
でも、そのことによってこの映画の完成度が更に上がったのは皮肉としか言いようがあ
りません。その変更されたシーンは終盤にやってきます。
音楽にも造詣の深い監督がラストシーンに用意したのは哀愁を帯びた誰もが一度は聞い
たことのあるあの曲でした。そしてエンドロールにも監督の強いメッセージが込められ
ています。そのセンスに感心しました。
クリスに合衆国そのものを重ね合わせて観ると監督の意図が良くわかります。
イーストウッド監督は今年5月31日で85歳になりますが2000年から昨年までをとっ
てみても14本の映画の演出をしています。しかも、2006年(76歳)には「父親たち
の星条旗」「硫黄島からの手紙」2008年(78歳)には「チェンジリング」「グラン・
トリノ」そして2014年(84歳)にはこの作品と「ジャージー・ボーイズ」と年間2作
品を撮るという充実ぶりです。多作でありながらそのすべてが素晴らしい出来栄えで、
今や監督自身がレジェンドの域に達していると言っても過言ではないとおもいます。
R15+ <紅孔雀>
トラッシュ!
この街が輝く日まで
2014年製作 イギリス映画 上映時間1h54 <予告篇>
監督:スティーブン・ダルドリー 脚本:リチャード・カーティス
出演:リックソン・テベス / エデュアルド・ルイス / ガブリエル・ウェインスタイン
マーティン・シーン
「リトル・ダンサー」「愛を読む人」の監督スティーブン・ダルドリーがメガホンをとって
います。
物語の舞台はブラジルです。ゴミ捨て場で金目な物を拾って生活をしている3人の少年が
主人公です。ある日、そのゴミ捨て場で少年たちが財布を拾います。とりあえず金を抜き取り
財布を捨てようとしますが身分証明書や謎めいたカードが入っていたので取っておくことにし
ます。ところが次の日から警察の大捜索が始まります。やがて財布の持ち主が殺されたことが
わかり、少年たちは事実を知るために行動を始めるのです。逃げ回る少年たちが少年らしく
少しずつ証拠を残してしまっていてハラハラさせます。面白いのはスラム街の人たちの反権力
意識や結束力が強いために警察がいくら大動員をかけても少年たちがスラム街に逃げ込めば
どこにいったのか分からなくところです。途中で「シティ・オブ・ゴッド」を思い出させる
シーンもあり緊張感が途切れません。
ブラジルオリンピック委員会やサッカー協会などの名前まで飛び出し驚きます。
全国でも上映館が少なく広島で鑑賞できるのは貴重です。 <紅孔雀>
妻の病-レビー小体型認知症
ドキュメンタリー
監督:伊勢真一 撮影:石倉隆二
横川シネマで観ました。前日観に行った友人から「人が多くてびっくりした!!」との
メールがあったのでいつもよりずいぶん早めに行ったのですが、本当に多かったです。
妻は認知症を患い、記憶はだんだん薄れていく。医師である夫もうつ病を抱えている。
それでも画面に映る2人は、大きな笑い声や、笑顔が印象に残ります。
妻の発症当時、小児科のクリニックを開業したばかりで仕事が忙しく、自身の体調もあ
り自分では妻の面倒が見れなくなった夫は、妻を東京の施設に預けます。その時のこと
を振り返って「いなくなればいいと思っていたのに、いざ預けたら寂しくて、寂しく
て…」と語ります。「妻が病を得て、初めて本当の彼女の姿が分かったような気がす
る、もっと彼女の心が知りたい。」とも。健康な時にはお互い真摯に向き合う必要は少
なかったのかもしれません。取りあえず生活していれば、相手を知る努力をしなくても
日々は過ぎていきます。
妻が病気になったことで、否が応でも相手を見つめざるを得なくなり、そのことで
二人の距離は近づいています。進行性の病気は治らないけれど、2人は決して不幸では
ない。そんな気がしました。悲惨な状況ではない姿を映した監督に感謝です。
この映画を一人で観た夫(妻)は、帰宅して相手にやさしい言葉を掛けたくなったと思い
ます。残念ながら、私にはいませんが…。今回の上映は2月21日までですが、要望に
応えて3月にアンコール上映が決まっているそうです。 <北の村人>